JOURNAL

小林和人が選んだもの「ヤカンの話」

小林和人が選んだもの「ヤカンの話」

ひとつの物について深く探っていくことで、物選びがグッと楽しくなる。 この連載では、LOST AND FOUND セレクター・⼩林和⼈さんが、このお店で選んだアイテムの中から毎回ひとつをピックアップし、とことん話します。今回⼩林さんが話してくれたのは、Belmont の「ファイヤースクエアケトル」についてです。 絵になるヤカンですよね。 ありそうでないヤカンを探していたんです。そしたら Belmontという新潟のアウトドア製品のメーカーのヤカンにたどり着いた。ボディからハンドルまで全てステンレスの鏡面仕上げが美しく、⼀⽬で気に⼊りました。 物と形の必然性が直結している“物” ヤカンて、結構場所を取るもの。でもこれはハンドルを折りたためて、重ねて収納もできる。本棚にしまいたくなるくらい。それはまずいか(笑)。 このケトル、初めて⾒る姿ではあれど、どこかの軍の装備品にありそうな…。独⾃のキャラクターを感じながらも、同時に普遍性を感じるんです。それはなぜかというと、そのもの⾃体が必然性を体現しているから。この形もきっと奇をてらったわけではなく、おそらく収納性と熱効率の両立を追求することによって⽣まれた姿なんじゃないかなと、想像できます。そういう物の形と必然性が直結している“物”を選びたいですね。 視点を変えることでさらに光る物 ⼀番気に⼊っているのは、つまみの部分。バネのようにカチャっと折りたためるようになっているのですが、持ち⼿だけが削り出しの真鍮なんです。ソリッドな感じで。ディティールのちょっとしたところで印象が⼤きく違ってきますよね。機能⾯でいうと、底⾯積が広く確保されているので、早く沸くというメリットもちゃんとあります。中に茶こしが付いているので、お茶っ葉を⼊れて煮出し、そのまま冷蔵庫で冷やしても良いですよね。 実はこれ、もともと家庭用として販売されている既存のヤカンをキャンプ用にモディファイした製品なんですが、それをまた敢えて家で使うものとして捉え直すというのがLOST AND FOUND的な道具選びの視点かなと思っています。そうやって視点を変えることでさらに光る物って、世の中には結構あるはずなんです。特にキャンプ⽤品には、掘っていくと⾒⽴て次第で家使いにも良い物がたくさんあるんじゃないかな。 ヤカンて皆さん持っていると思うんですが、これは既に持っているヤカンとは競合しないはず。だから贈り物にもすごくいいなと。サブ的な位置付けの、「⼆つ⽬のヤカン」としても使えると思います。でも、ハンドルは熱くなるので布で持った⽅が良いですよ。 「あり方が自然な物、もともと存在していたかのような顔をしている物を選びたい」これは小林さんの物選びの基準のひとつだそうです。ファイヤースクエアケトルは、考え抜かれた機能性を携え、しかしどこの食卓にもすっと馴染んでしまいそうな佇まいで、私たちの生活を彩ってくれるはず。 <記事内紹介商品> 小林 和人 @kazutokobayashi1975年東京都生まれ。1999年多摩美術大学卒業後、国内外の生活用品を扱う「Roundabout」を吉祥寺にオープン(2016年に代々木上原に移転)。2008年には非日常にやや針の振れた温度の品々を展開する「OUTBOUND」を始動。両店舗のすべての商品のセレクトや店内ディスプレイ、展覧会の企画を手がける。「LOST AND FOUND」ではセレクターを務める。 interview & text by Sahoko...

小林和人が選んだもの「ヤカンの話」

ひとつの物について深く探っていくことで、物選びがグッと楽しくなる。 この連載では、LOST AND FOUND セレクター・⼩林和⼈さんが、このお店で選んだアイテムの中から毎回ひとつをピックアップし、とことん話します。今回⼩林さんが話してくれたのは、Belmont の「ファイヤースクエアケトル」についてです。 絵になるヤカンですよね。 ありそうでないヤカンを探していたんです。そしたら Belmontという新潟のアウトドア製品のメーカーのヤカンにたどり着いた。ボディからハンドルまで全てステンレスの鏡面仕上げが美しく、⼀⽬で気に⼊りました。 物と形の必然性が直結している“物” ヤカンて、結構場所を取るもの。でもこれはハンドルを折りたためて、重ねて収納もできる。本棚にしまいたくなるくらい。それはまずいか(笑)。 このケトル、初めて⾒る姿ではあれど、どこかの軍の装備品にありそうな…。独⾃のキャラクターを感じながらも、同時に普遍性を感じるんです。それはなぜかというと、そのもの⾃体が必然性を体現しているから。この形もきっと奇をてらったわけではなく、おそらく収納性と熱効率の両立を追求することによって⽣まれた姿なんじゃないかなと、想像できます。そういう物の形と必然性が直結している“物”を選びたいですね。 視点を変えることでさらに光る物 ⼀番気に⼊っているのは、つまみの部分。バネのようにカチャっと折りたためるようになっているのですが、持ち⼿だけが削り出しの真鍮なんです。ソリッドな感じで。ディティールのちょっとしたところで印象が⼤きく違ってきますよね。機能⾯でいうと、底⾯積が広く確保されているので、早く沸くというメリットもちゃんとあります。中に茶こしが付いているので、お茶っ葉を⼊れて煮出し、そのまま冷蔵庫で冷やしても良いですよね。 実はこれ、もともと家庭用として販売されている既存のヤカンをキャンプ用にモディファイした製品なんですが、それをまた敢えて家で使うものとして捉え直すというのがLOST AND FOUND的な道具選びの視点かなと思っています。そうやって視点を変えることでさらに光る物って、世の中には結構あるはずなんです。特にキャンプ⽤品には、掘っていくと⾒⽴て次第で家使いにも良い物がたくさんあるんじゃないかな。 ヤカンて皆さん持っていると思うんですが、これは既に持っているヤカンとは競合しないはず。だから贈り物にもすごくいいなと。サブ的な位置付けの、「⼆つ⽬のヤカン」としても使えると思います。でも、ハンドルは熱くなるので布で持った⽅が良いですよ。 「あり方が自然な物、もともと存在していたかのような顔をしている物を選びたい」これは小林さんの物選びの基準のひとつだそうです。ファイヤースクエアケトルは、考え抜かれた機能性を携え、しかしどこの食卓にもすっと馴染んでしまいそうな佇まいで、私たちの生活を彩ってくれるはず。 <記事内紹介商品> 小林 和人 @kazutokobayashi1975年東京都生まれ。1999年多摩美術大学卒業後、国内外の生活用品を扱う「Roundabout」を吉祥寺にオープン(2016年に代々木上原に移転)。2008年には非日常にやや針の振れた温度の品々を展開する「OUTBOUND」を始動。両店舗のすべての商品のセレクトや店内ディスプレイ、展覧会の企画を手がける。「LOST AND FOUND」ではセレクターを務める。 interview & text by Sahoko...

行方ひさこのLOST AND FOUNDなキッチン -unis 薬師神 陸シェフ 前編

行方ひさこのLOST AND FOUNDなキッチン -unis 薬師神 陸シェフ 前編

時代を明るくリードしてくれる様々な分野にまつわるプロフェッショナルたち。そんなプロたちが「LOST AND FOUND」からアイテムを選び、そこに彩りを添えてくれます。たくさんのものを見て、選んできた彼らだからこその物を選ぶ時のこだわりや、ものとの向き合う姿勢を行方ひさこが掘り下げていきます。 今回は食のプロ、unisの薬師神 陸さんをゲストにお迎えしました。薬師神さんとは彼の独立を機にやりとりをするようになり、仕事も、生産者さんを一緒にまわったりもする間柄。独立し自身のお店を構えたばかりの彼だからこそ、この企画にふさわしいと、お声がけさせていただきました。 彼が迷わず選んだのは、REMASTERDの「7cmタンブラー」&「ティースプーン」。初回にふさわしくコース1品目のアペタイザーとしての器を選んでくれました。「多くの品数を提供する僕のお店では、このくらいのコンパクトなサイズが一皿の容量にちょうどよいと思って選びました。そして何よりどの季節でも合いそうだから。」 「unis」のコースは、全11皿からなる贅沢なコースです。 「完成されすぎた美しすぎる器は食事を選んでしまう。だから僕は、足し算ができる余白のある器を選びます。」 昨年オープンしたばかりの薬師神さんのレストラン「unis」のコンセプトは、「無垢」の世界観。大理石、木、土、革、和紙、陶磁器……できるだけ天然素材を使って内装を作り上げていったそう。店内の照明も時間によって自在に切り替えています。「明かりを楽しむというより影を楽しむ。柔らかい影を作るというのも大切な『無垢」の世界観だと思うんです。」  普段彼がお店のために選ぶ器は、完全にオリジナルで製作されたもの。コースの構成をある程度固めた後にコンセプトを作家さんに伝え、何度もディスカッションと試作を重ねて作り上げていったといいます。今まで数々の地方を訪れた際に出会った作家さんたちのそれぞれのデザインと技術の特性を活かしつつ、伝統的な柄を入れたり地方の特性を入れてみたり。緊急事態宣言でオープン日が後ろ倒しになった分、時間をかけてじっくりと向き合い、可能性を探っていったそう。とはいえ、奇をてらったような器たちではなく、そのほとんどが白。「白と言っても艶のあるものやマットなもの、そしてその土地土地や素材によって『白」という色も複数ある。そのあたりも『無垢」として活かしていきたかった。」と、それも大切にしている薬師神的ナチュラルティ=「無垢」の世界観の表現の1つです。そんな「無垢」な世界観にこだわったのは、完成してしまった空間では余白がなく四季を感じられないから。「年4回撮り下ろす映像演出によるデジタルなコミュニケーションで食材と共に季節感を感じてもらいたい。」と話してくれました。インタビューをさせていただいたこの日は、今年の春の屋久島の深い緑が店内に彩りとしっとりとした空気を添えていました。プライベートでものを選ぶ時も、完全に一目惚れタイプ。佇まいや空気感に気持ちを持っていかれることが多いそう。「一目惚れの相手をどんどん深掘りして、他にどんなものがあるのか、できるのかを探っていくのが楽しい(笑)。」   ものを選ぶ時に薬師神さんが大切にしていることは、「足し算ができる余白がある」こと。そこになにか足すことで完成する世界観は、決められたゴールがあるよりも何倍もの可能性が広がるはず。自分たちでは決して作り出すことができない天然の素材感を大切にしながら、というところにも薬師神さんの自然と対峙する姿勢が垣間見える気がします。先が読みづらい今の時期のコミュニケーションに大切なことは、いかに楽しんでスマートに余白を活かしきるかということではないでしょうか。薬師神さんが選び、彩りを添えてくれた今回の7cmタンブラーとスプーン。さりげないサイズと形状、そして重さまでもが絶妙にしっくりとくるアイテムです。前菜からデザートまで料理を選ばず、その余白とポテンシャルで料理をより引き立ててくれることでしょう。 器を彩るために作ってくれたメニューは、「そら豆とつぶ貝のミモレットフラン」。実際にこの時期にお店で提供されているメニューです。季節を感じられるそら豆の香りとミモレットチーズの深いコク、つるんとした口溶けの中につぶ貝の歯応えが楽しい一品です。詳しいレシピは次回公開予定! <記事内紹介商品> 薬師神 陸 Chef / Curinary Producer @rikuyakusijin1988年愛媛県生まれ。2008年辻調理師専門学校フランス料理講師としてスタートし、教育からテレビ料理監修など幅広く活躍。 2014年から予約困難『SUGALABO』の立ち上げから須賀洋介シェフの右腕として同店を支えた。2019年に独立し、2020年食のインキュベーション事業「Social Kitchen」と併設するレストラン「unis」で新しい料理人の働き方を自ら体現する。全国の600以上を超える生産者とのコネクションを生かし〝食のリテラシーを磨く〟をコンセプトに、商品開発、メニュー監修など多彩に活動する。unis東京都港区虎ノ門1-23-3 虎ノ門ヒルズガーデンハウス1FSocial Kitchen TORANOMON内https://unis-anniversary.com行方ひさこ@hisakonamekatainterview & text by Hisako Namekata ~~photo by Naoki...

行方ひさこのLOST AND FOUNDなキッチン -unis 薬師神 陸シェフ 前編

時代を明るくリードしてくれる様々な分野にまつわるプロフェッショナルたち。そんなプロたちが「LOST AND FOUND」からアイテムを選び、そこに彩りを添えてくれます。たくさんのものを見て、選んできた彼らだからこその物を選ぶ時のこだわりや、ものとの向き合う姿勢を行方ひさこが掘り下げていきます。 今回は食のプロ、unisの薬師神 陸さんをゲストにお迎えしました。薬師神さんとは彼の独立を機にやりとりをするようになり、仕事も、生産者さんを一緒にまわったりもする間柄。独立し自身のお店を構えたばかりの彼だからこそ、この企画にふさわしいと、お声がけさせていただきました。 彼が迷わず選んだのは、REMASTERDの「7cmタンブラー」&「ティースプーン」。初回にふさわしくコース1品目のアペタイザーとしての器を選んでくれました。「多くの品数を提供する僕のお店では、このくらいのコンパクトなサイズが一皿の容量にちょうどよいと思って選びました。そして何よりどの季節でも合いそうだから。」 「unis」のコースは、全11皿からなる贅沢なコースです。 「完成されすぎた美しすぎる器は食事を選んでしまう。だから僕は、足し算ができる余白のある器を選びます。」 昨年オープンしたばかりの薬師神さんのレストラン「unis」のコンセプトは、「無垢」の世界観。大理石、木、土、革、和紙、陶磁器……できるだけ天然素材を使って内装を作り上げていったそう。店内の照明も時間によって自在に切り替えています。「明かりを楽しむというより影を楽しむ。柔らかい影を作るというのも大切な『無垢」の世界観だと思うんです。」  普段彼がお店のために選ぶ器は、完全にオリジナルで製作されたもの。コースの構成をある程度固めた後にコンセプトを作家さんに伝え、何度もディスカッションと試作を重ねて作り上げていったといいます。今まで数々の地方を訪れた際に出会った作家さんたちのそれぞれのデザインと技術の特性を活かしつつ、伝統的な柄を入れたり地方の特性を入れてみたり。緊急事態宣言でオープン日が後ろ倒しになった分、時間をかけてじっくりと向き合い、可能性を探っていったそう。とはいえ、奇をてらったような器たちではなく、そのほとんどが白。「白と言っても艶のあるものやマットなもの、そしてその土地土地や素材によって『白」という色も複数ある。そのあたりも『無垢」として活かしていきたかった。」と、それも大切にしている薬師神的ナチュラルティ=「無垢」の世界観の表現の1つです。そんな「無垢」な世界観にこだわったのは、完成してしまった空間では余白がなく四季を感じられないから。「年4回撮り下ろす映像演出によるデジタルなコミュニケーションで食材と共に季節感を感じてもらいたい。」と話してくれました。インタビューをさせていただいたこの日は、今年の春の屋久島の深い緑が店内に彩りとしっとりとした空気を添えていました。プライベートでものを選ぶ時も、完全に一目惚れタイプ。佇まいや空気感に気持ちを持っていかれることが多いそう。「一目惚れの相手をどんどん深掘りして、他にどんなものがあるのか、できるのかを探っていくのが楽しい(笑)。」   ものを選ぶ時に薬師神さんが大切にしていることは、「足し算ができる余白がある」こと。そこになにか足すことで完成する世界観は、決められたゴールがあるよりも何倍もの可能性が広がるはず。自分たちでは決して作り出すことができない天然の素材感を大切にしながら、というところにも薬師神さんの自然と対峙する姿勢が垣間見える気がします。先が読みづらい今の時期のコミュニケーションに大切なことは、いかに楽しんでスマートに余白を活かしきるかということではないでしょうか。薬師神さんが選び、彩りを添えてくれた今回の7cmタンブラーとスプーン。さりげないサイズと形状、そして重さまでもが絶妙にしっくりとくるアイテムです。前菜からデザートまで料理を選ばず、その余白とポテンシャルで料理をより引き立ててくれることでしょう。 器を彩るために作ってくれたメニューは、「そら豆とつぶ貝のミモレットフラン」。実際にこの時期にお店で提供されているメニューです。季節を感じられるそら豆の香りとミモレットチーズの深いコク、つるんとした口溶けの中につぶ貝の歯応えが楽しい一品です。詳しいレシピは次回公開予定! <記事内紹介商品> 薬師神 陸 Chef / Curinary Producer @rikuyakusijin1988年愛媛県生まれ。2008年辻調理師専門学校フランス料理講師としてスタートし、教育からテレビ料理監修など幅広く活躍。 2014年から予約困難『SUGALABO』の立ち上げから須賀洋介シェフの右腕として同店を支えた。2019年に独立し、2020年食のインキュベーション事業「Social Kitchen」と併設するレストラン「unis」で新しい料理人の働き方を自ら体現する。全国の600以上を超える生産者とのコネクションを生かし〝食のリテラシーを磨く〟をコンセプトに、商品開発、メニュー監修など多彩に活動する。unis東京都港区虎ノ門1-23-3 虎ノ門ヒルズガーデンハウス1FSocial Kitchen TORANOMON内https://unis-anniversary.com行方ひさこ@hisakonamekatainterview & text by Hisako Namekata ~~photo by Naoki...