小林和人が選んだもの「まな板の話」

ひとつの物について深く探っていくことで、物選びがグッと楽しくなる。
この連載では、LOST AND FOUNDセレクター・小林和人さんが、このお店で選んだアイテムの中から毎回ひとつをピックアップし、とことん話します。
今回小林さんが話してくれたのは、Per Sanfridsonの「バーチ カッティングボード」についてです。



器と地続きのカッティングボード

まな板と包丁は、突き詰め始めたら止まらない…深い沼みたいなもの。本来は極めて専門性の高いジャンルだと思います。
でもこのまな板はテーブルの上に出してカジュアルに使える、“器と地続きのカッティングボード”といった、もっと気軽なもの。
キッチンに引っ掛けても、食卓に出しても、はたまたアウトドアでも、どんなシーンのどんな場所でも温かく寄り添ってくれるまな板です。

みられていることを意識していないような物に惹かれる

スウェーデン・ダーラナ地方の湖にほど近い工房で、手仕事で作られているそうですが、デザイナーがデザインしたというよりは、もっと“アノニマス”なイメージ。
私はもともと、「どうだ!」とこれ見よがしにデザインされている物よりも、どちらかといえば見られていることを意識していないような物に惹かれます。
作り手の作為が前に出すぎてしまっているようなものは、結局すぐに飽きてしまうんですよね。
でもこのボードのように、作り手の謙虚な姿勢が感じられる物というのは素直な魅力を覚えます。

樺の木のもともとの自然の形(なり)を生かしているので、一つひとつ表情が異なります。
店頭なら選ぶ楽しみがありますし、オンラインなら届くまでの楽しみがありますね。

“ほっこりの落とし穴”にはまらないギリギリのバランス

私が特に気に入っているのは小さいサイズ。チーズをさりげなく並べるだけでも良い。
しっかりとした厚みがありながら、この小ささは、探そうと思ってもなかなかないんです。
この厚みがあるからこそ、素材感をしっかり感じられ、身近でありながら決して安っぽくならないのだと思います。ハンドメイドの木製品が陥りがちな“ほっこりの落とし穴”にはまらないギリギリのバランスというのは意外に難しいのです。この適度なバランスにより、デザインされていないようで、しっかりとデザインされた一枚が成り立つのだと言えるのでしょう。



「謙虚な姿勢を感じる物」という言葉が印象的。
確かにこのまな板は、食材や料理を、そして食卓に並んだ他の器たちを引き立ててくれるような控えめな佇まいながら、まわりをずっしりと受け止めてくれるような懐の広さも感じさせてくれる。
長く使える物を選ぶとき、居心地よく他と“調和”するかを見極めていきたいものですね。

<記事内紹介商品>

小林 和人 kazutokobayashi
1975年東京都生まれ。1999年多摩美術大学卒業後、国内外の生活用品を扱う「Roundabout」を吉祥寺にオープン(2016年に代々木上原に移転)。2008年には非日常にやや針の振れた温度の品々を展開する「OUTBOUND」を始動。両店舗のすべての商品のセレクトや店内ディスプレイ、展覧会の企画を手がける。
LOST AND FOUND」ではセレクターを務める。

interview & text by Sahoko Seki
photo by Naoki Yamashita

※記事に価格の掲載がある場合、表示価格は投稿当時のものとなります。

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