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小林和人が選んだもの 「ALESSIの話」

小林和人が選んだもの 「ALESSIの話」

ひとつの物について深く探っていくことで、物選びがグッと楽しくなる。この連載では、LOST AND FOUNDセレクター・小林和人さんが、このお店で選んだアイテムの中から毎回ひとつをピックアップし、とことん話します。 今回小林さんが話してくれたのは、長く愛用できるステンレス鍋・フライパン「ALESSI」についてです。 NIKKOとの歴史的な関わり 小林さん:ALESSIのデザイナーであるJasper Morrison(ジャスパー・モリソン)は、実はNIKKOと深い関わりがあるんです。2000年代初め頃にIDÉEから発売されていた『MUD COLLECTION』というプロダクトシリーズは、彼がデザインを手がけ、NIKKOのボーンチャイナを使って作られていました。NIKKOのデザイン室長が彼と打合せをした際、『柳宗理のプロダクトを製造している企業と仕事をするのは光栄だ』と言われたそうですよ。 造り手の体温を感じるデザイン 小林さん:Jasper Morrisonのデザインは、シンプルで余分な要素をそぎ落とした“調理道具然”とした感じもありつつ、そこはかとないエレガントさもあります。そのバランスが肝だと思います。鍋の蓋の持ち手は木べらを差して持ち上げる工夫が隠れています。深い鍋の側面はストンとした寸胴鍋のような形状ではなく、ほんの少しだけ、食欲をそそる美味しそうな丸みがあります。これは冷たいステンレスの製品だからこそ映えるデザイン。随所にデザイナーの体温を感じ、チャーミングな印象すら受けます。デザインも料理も、“さじ加減”が大事ということを教えてくれます。 隠れた主役は「ターナーワイド」 小林さん:28cmのフライパンで目玉焼きを作りながら気づいたのが、お皿に盛り付けるときに、よくあるサイズのターナーだと心もとないなって。勢いでシャっと持っていかないといけない。でもポルトガルのナイフメーカー『ICEL』のそれは、幅も長さも余裕があって、しなりを持たせながら簡単に食材の下に差し込むことができます。ステンレスのフライパンとの相性が良く、今日の隠れた主役です(笑)。 BIGな人間になりたければ!? 小林さん:コーティングされているわけではありませんが、高温に熱してから油をしっかり引いて使うと卵が全くくっつかないです。深さがあるので、炒めものの際にも食材がこぼれづらいです。妻に指導してもらいながら、じゃこと小松菜のパスタを作りました。満水時に8ℓ入る大きな鍋はパスタを茹でる時に。麺を対流させることが大事とよく言いますが、この鍋で茹でていただきたいです。そういえば、友人のグラフィックデザイナーが、『借りた物件の大きさに応じて大きな仕事が入ってくる』と言っていました。大きな仕事をしたければ大きな物件を選べ!BIGな人間になりたければBIGな鍋を買え!ってことですね(笑)。 ステンレスのフライパンは使いづらいのでは?と不安に思っている方も多いかもしれない。しかしポイントさえ押さえれば、長く愛用できるアイテム。優れたデザインは小林さんの言葉のとおり、さらに保温性に優れ、食材に熱が均一にすばやく伝わる3層構造など、良いこともたくさん。フッ素加工が好まれる時代、それはそれで役割があるけれど、コーティングをしていないステンレス鍋の良さもある。ALESSIは、ずっと使い続けながら、仲を深めていきたいアイテムだ。 <記事内紹介商品> ALESSI Pots&Pans ストックポット 24cm AJM 100/24 ¥22,000 Icel ターナーワイド ¥4,180 ALESSI Pots&Pans フライパン...

小林和人が選んだもの 「ALESSIの話」

ひとつの物について深く探っていくことで、物選びがグッと楽しくなる。この連載では、LOST AND FOUNDセレクター・小林和人さんが、このお店で選んだアイテムの中から毎回ひとつをピックアップし、とことん話します。 今回小林さんが話してくれたのは、長く愛用できるステンレス鍋・フライパン「ALESSI」についてです。 NIKKOとの歴史的な関わり 小林さん:ALESSIのデザイナーであるJasper Morrison(ジャスパー・モリソン)は、実はNIKKOと深い関わりがあるんです。2000年代初め頃にIDÉEから発売されていた『MUD COLLECTION』というプロダクトシリーズは、彼がデザインを手がけ、NIKKOのボーンチャイナを使って作られていました。NIKKOのデザイン室長が彼と打合せをした際、『柳宗理のプロダクトを製造している企業と仕事をするのは光栄だ』と言われたそうですよ。 造り手の体温を感じるデザイン 小林さん:Jasper Morrisonのデザインは、シンプルで余分な要素をそぎ落とした“調理道具然”とした感じもありつつ、そこはかとないエレガントさもあります。そのバランスが肝だと思います。鍋の蓋の持ち手は木べらを差して持ち上げる工夫が隠れています。深い鍋の側面はストンとした寸胴鍋のような形状ではなく、ほんの少しだけ、食欲をそそる美味しそうな丸みがあります。これは冷たいステンレスの製品だからこそ映えるデザイン。随所にデザイナーの体温を感じ、チャーミングな印象すら受けます。デザインも料理も、“さじ加減”が大事ということを教えてくれます。 隠れた主役は「ターナーワイド」 小林さん:28cmのフライパンで目玉焼きを作りながら気づいたのが、お皿に盛り付けるときに、よくあるサイズのターナーだと心もとないなって。勢いでシャっと持っていかないといけない。でもポルトガルのナイフメーカー『ICEL』のそれは、幅も長さも余裕があって、しなりを持たせながら簡単に食材の下に差し込むことができます。ステンレスのフライパンとの相性が良く、今日の隠れた主役です(笑)。 BIGな人間になりたければ!? 小林さん:コーティングされているわけではありませんが、高温に熱してから油をしっかり引いて使うと卵が全くくっつかないです。深さがあるので、炒めものの際にも食材がこぼれづらいです。妻に指導してもらいながら、じゃこと小松菜のパスタを作りました。満水時に8ℓ入る大きな鍋はパスタを茹でる時に。麺を対流させることが大事とよく言いますが、この鍋で茹でていただきたいです。そういえば、友人のグラフィックデザイナーが、『借りた物件の大きさに応じて大きな仕事が入ってくる』と言っていました。大きな仕事をしたければ大きな物件を選べ!BIGな人間になりたければBIGな鍋を買え!ってことですね(笑)。 ステンレスのフライパンは使いづらいのでは?と不安に思っている方も多いかもしれない。しかしポイントさえ押さえれば、長く愛用できるアイテム。優れたデザインは小林さんの言葉のとおり、さらに保温性に優れ、食材に熱が均一にすばやく伝わる3層構造など、良いこともたくさん。フッ素加工が好まれる時代、それはそれで役割があるけれど、コーティングをしていないステンレス鍋の良さもある。ALESSIは、ずっと使い続けながら、仲を深めていきたいアイテムだ。 <記事内紹介商品> ALESSI Pots&Pans ストックポット 24cm AJM 100/24 ¥22,000 Icel ターナーワイド ¥4,180 ALESSI Pots&Pans フライパン...

LOST AND FOUND が選ぶ、THANKS GIFT

LOST AND FOUND が選ぶ、THANKS GIFT

LOST AND FOUND TOKYO STORE では“THANKS GIFT”をテーマにメインテーブルをディスプレイ。お世話になった方や、大切な方へ気軽に贈れる、値段はお手頃でも貰ったら絶対に嬉しい、長く愛用できる日用品を、セレクターの小林和人氏とピックアップ。その中から、おすすめのアイテムをご紹介します。 90年の歴史を持つインドの紡績会社シャラダ社が開発した、地球と人に優しい最高級インド超長綿を使った、Micro Cotton(マイクロコットン)。 LUXURYシリーズのタオルは世界のホテルはもちろん、アメリカ政府にも認められ、政府公館や政府専用機内でも採用されたシリーズ。独特のふんわりとしなやかな風合いが特徴です。小林さん :タオルは、使ってもらえる贈り物の代表だと思います。Micro Cottonの中でもLUXURYシリーズは、密度があって吸水性が高いので、日常的に使って欲しいと思っています。最初の柔らかめな肌ざわりよりも、使い込んでからのしっかりとした質感が好きです。Micro Cotton Luxury シリーズハンドタオル ¥1,650フェイスタオル ¥3,300バスタオル ¥5,500 Micro Cotton ミニバスタオル ホワイト ¥5,500 Micro Cotton ミニバスタオル ブラック ¥5,500 Micro Cotton...

LOST AND FOUND が選ぶ、THANKS GIFT

LOST AND FOUND TOKYO STORE では“THANKS GIFT”をテーマにメインテーブルをディスプレイ。お世話になった方や、大切な方へ気軽に贈れる、値段はお手頃でも貰ったら絶対に嬉しい、長く愛用できる日用品を、セレクターの小林和人氏とピックアップ。その中から、おすすめのアイテムをご紹介します。 90年の歴史を持つインドの紡績会社シャラダ社が開発した、地球と人に優しい最高級インド超長綿を使った、Micro Cotton(マイクロコットン)。 LUXURYシリーズのタオルは世界のホテルはもちろん、アメリカ政府にも認められ、政府公館や政府専用機内でも採用されたシリーズ。独特のふんわりとしなやかな風合いが特徴です。小林さん :タオルは、使ってもらえる贈り物の代表だと思います。Micro Cottonの中でもLUXURYシリーズは、密度があって吸水性が高いので、日常的に使って欲しいと思っています。最初の柔らかめな肌ざわりよりも、使い込んでからのしっかりとした質感が好きです。Micro Cotton Luxury シリーズハンドタオル ¥1,650フェイスタオル ¥3,300バスタオル ¥5,500 Micro Cotton ミニバスタオル ホワイト ¥5,500 Micro Cotton ミニバスタオル ブラック ¥5,500 Micro Cotton...

小林和人が選んだもの 「BONDI WASHの話」

小林和人が選んだもの 「BONDI WASHの話」

ひとつの物について深く探っていくことで、物選びがグッと楽しくなる。この連載では、LOST AND FOUNDセレクター・小林和人さんが、このお店で選んだアイテムの中から毎回ひとつをピックアップし、とことん話します。 今回小林さんが話してくれたのは、家事にご褒美をくれる!?「BONDI WASH」についてです。 オーストラリアらしいWASHブランド 小林さん:掃除、洗濯、食器洗い用から、ベビー用やペット用まで様々な用途が揃ったBONDI WASHは、その名のとおりオーストラリア・ボンダイで創業したブランドです。石油由来の原料は一切使用せず、99%〜100%が植物由来成分から成るにもかかわらず洗浄力はしっかり確保するという、人体や環境への配慮と実際の機能を両立させた製品であることが特徴です。実は小さい頃、メルボルンに2年半くらい住んでいたことがあり、親近感がわくんですよ。でもボンダイビーチは行ったことがないので、いつか行ってみたいですね。 家事をした後のご褒美 小林さん:ここの製品はどれも香りがとても良いのが特徴なんです。例えば窓ガラスや鏡の掃除に適したグラススプレーは、シドニーペパーミントとローズマリーのすっとする爽やかな香りであったり、住宅の壁や床、ドアなど多用途に使えるベンチスプレーは、タスマニアンペッパーとオーストラリアンラベンダーの和らぐ香りにほっとします。オーストラリアはラベンダー生産でも有名で、自然素材をベースとした石鹸やエッセンシャルオイルなどの小規模生産者も多いんですよね。掃除をした後に良い香りが立ち上がるっていうのは、ちょっとご褒美みたいな。家事のモチベーションを上げてくれます。 掃除のアルバイト経験 小林さん:(窓ガラスを拭きながら)吹き上げるの、好きかもしれないですね。枠を決めて、口の字の内側を塗りつぶしていくんです。実は昔、掃除のアルバイトをしていたんですよ。閉店後の店舗の床やガラスを掃除するっていう。洗剤をバケツに入れて水で溶き、タオルを絞って吹いていって。最後に乾いたウェスで吹き上げます。BONDI WASHみたいに良いものじゃなかったから手はカサカサだったけど、今となっては懐かしいですね(笑)。 家に馴染むデザイン 小林さん:パッケージのグラフィックも商品をセレクトする上で重要な要素なんですが、このスッキリした雰囲気がいいですよね。ハンドウォッシュとかって、妙にラグジュアリー感が出過ぎても違うし、家に馴染むちょうど良い感じが気に入っています。頑張る姿を誰からも見られることのない日々の家事仕事であっても、拭き上げた場所からフワッと良い香りがしたら、ちょっと励まされるかもしれない。自然の恵みがもたらす香りのBONDI WASHがあれば、家中の掃除洗濯を心地よくできるはずだ。犬用WASHの紹介は、昔犬を飼っていたという小林さんが、他の犬アイテムとともにご紹介するとのことで、「犬の話はとっておきますね」 <記事内紹介商品> BONDI WASH グラススプレー シドニーペパーミント&ローズマリー 500ml ¥2,640 BONDI WASH ベンチスプレー タスマニアンペッパー&ラベンダー 500ml ¥3,300 小林...

小林和人が選んだもの 「BONDI WASHの話」

ひとつの物について深く探っていくことで、物選びがグッと楽しくなる。この連載では、LOST AND FOUNDセレクター・小林和人さんが、このお店で選んだアイテムの中から毎回ひとつをピックアップし、とことん話します。 今回小林さんが話してくれたのは、家事にご褒美をくれる!?「BONDI WASH」についてです。 オーストラリアらしいWASHブランド 小林さん:掃除、洗濯、食器洗い用から、ベビー用やペット用まで様々な用途が揃ったBONDI WASHは、その名のとおりオーストラリア・ボンダイで創業したブランドです。石油由来の原料は一切使用せず、99%〜100%が植物由来成分から成るにもかかわらず洗浄力はしっかり確保するという、人体や環境への配慮と実際の機能を両立させた製品であることが特徴です。実は小さい頃、メルボルンに2年半くらい住んでいたことがあり、親近感がわくんですよ。でもボンダイビーチは行ったことがないので、いつか行ってみたいですね。 家事をした後のご褒美 小林さん:ここの製品はどれも香りがとても良いのが特徴なんです。例えば窓ガラスや鏡の掃除に適したグラススプレーは、シドニーペパーミントとローズマリーのすっとする爽やかな香りであったり、住宅の壁や床、ドアなど多用途に使えるベンチスプレーは、タスマニアンペッパーとオーストラリアンラベンダーの和らぐ香りにほっとします。オーストラリアはラベンダー生産でも有名で、自然素材をベースとした石鹸やエッセンシャルオイルなどの小規模生産者も多いんですよね。掃除をした後に良い香りが立ち上がるっていうのは、ちょっとご褒美みたいな。家事のモチベーションを上げてくれます。 掃除のアルバイト経験 小林さん:(窓ガラスを拭きながら)吹き上げるの、好きかもしれないですね。枠を決めて、口の字の内側を塗りつぶしていくんです。実は昔、掃除のアルバイトをしていたんですよ。閉店後の店舗の床やガラスを掃除するっていう。洗剤をバケツに入れて水で溶き、タオルを絞って吹いていって。最後に乾いたウェスで吹き上げます。BONDI WASHみたいに良いものじゃなかったから手はカサカサだったけど、今となっては懐かしいですね(笑)。 家に馴染むデザイン 小林さん:パッケージのグラフィックも商品をセレクトする上で重要な要素なんですが、このスッキリした雰囲気がいいですよね。ハンドウォッシュとかって、妙にラグジュアリー感が出過ぎても違うし、家に馴染むちょうど良い感じが気に入っています。頑張る姿を誰からも見られることのない日々の家事仕事であっても、拭き上げた場所からフワッと良い香りがしたら、ちょっと励まされるかもしれない。自然の恵みがもたらす香りのBONDI WASHがあれば、家中の掃除洗濯を心地よくできるはずだ。犬用WASHの紹介は、昔犬を飼っていたという小林さんが、他の犬アイテムとともにご紹介するとのことで、「犬の話はとっておきますね」 <記事内紹介商品> BONDI WASH グラススプレー シドニーペパーミント&ローズマリー 500ml ¥2,640 BONDI WASH ベンチスプレー タスマニアンペッパー&ラベンダー 500ml ¥3,300 小林...

行方ひさこのLOST AND FOUNDなキッチン 鳥羽周作シェフ編

行方ひさこのLOST AND FOUNDなキッチン 鳥羽周作シェフ編

時代を明るくリードしてくれる、様々な分野にまつわるプロフェッショナルたち。そんなプロたちが選んだLOST AND FOUNDのアイテムと共にお送りする「行方ひさこのLOST ANDFOUNDなキッチン」。仕事、プライベート共にたくさんのものを見て、真摯に向き合ってきた彼らだからこその、なにかを選択する時の視点やこだわり、ものと向き合う姿勢などを掘り下げていきます。 鳥羽周作 J リーグの練習生、小学校の教員を経て、31 歳で料理の世界へ。2018年「sio」をオープン。同店はミシュランガイド東京 2020 から 4 年連続一つ星を獲得。現在、全国にいろいろな業態の8店舗を展開。モットーは『幸せの分母を増やす』。 今回は、ミシュランガイド東京で2020年から3年連続一つ星を獲得している代々木上原「sio」や、“架空のホテルのレストラン”をコンセプトにした青山「Hotel’s」など、日本各地で8店舗を展開する鳥羽周作シェフをゲストにお迎えしました。REMASTEREDに合う料理を作っていただきました。 幸せを増やす、という目的のための手段 鳥羽シェフ:早速なんですけれど、作りながらいきますよ! 根セロリとじゃがいものピューレを使ったタネでラビオリを作って、蛤のバターソースで和えます。1つはアンチョビを乗せるだけ。もう1つはスライスして丸型に抜いたカブを、毛蟹とりんごジャムとエシャロットのファルスで包んで、ラビオリの上に重ねて、最後にハーブを飾ろうかと。今回選んだ皿は、sioだったら半熟ゆで卵にアンチョビを乗せて出すのに使いたい皿なんですけど、それを前衛的な皿にしたくて。改めてこういう皿が見直されてる気がしてるんですよね。昔のパタゴニアがかっこいい!みたいな感じがあるじゃないですか。新しいブランドを合わせてコーディネートする感じ。そんな感じでいいですか? 行方:おぉ、早速ですね。もちろんです! 鳥羽シェフ:料理下手だからなー! 行方:いやいや。 鳥羽シェフ:技術ない系だから。 行方:またまたー。あ、そうだ!ミシュラン1つ星おめでとうございます。 鳥羽シェフ:ありがとうございます。いつも言ってることですけれど、大事なのは目的と手段だと思うんですよね。僕にとって、料理は手段!人を喜ばせるという目的の手段であって、料理をすることが目的ではないので、ミシュランを取りたい!っていう目的で仕事はしていないんです。ミシュランの星をいただくことは嬉しいですけれど、そこまで興味はないんです。 ものを生み出すことは、編集すること 今から作る皿(料理)は、お話をいただいた時に2分で思いついたんです。適当なわけではなく、いつもそうなんです。クリエイティブって生み出すんじゃなくて、編集することだと思うんですよ。 行方:そうですね、私もそう思います。 鳥羽シェフ:あるものをどういうふうにチューニングして作り上げるかだと思うので、生み出すって感覚ではないんです。なので、悩むって感覚もない。お店のコース料理は全部自分で考えているんですけれど、入浴中にNETFLIXを見ながら考えたりしています。むしろ、そういう方がいいんですよね。全て構成要素を因数分解して、その因数分解したものの羅列の変数を加味した上での編集作業だと思ってるんですよ。1つのお皿(料理)を作りたいと思ったら構成要素を全て挙げて、そのパワーバランスをどう編集していくかを考えていくので、作る前からフォーマットが決まっていて、あとはパズルをはめ込んでいく感覚。ビジネスもそういう感覚でやっています。クライアントが何を求めているかをまず1番に考える。そこから大事な要素を全て挙げて、そこにはめ込んでいく。僕はアホなんですけど、実はとっても細かいんです(笑)。料理に関しては手段なので、お客さまをどんな風に導きたいかを逆算で考えることが多い。だから、作りたい料理ってないんですよ。 行方:その時々の相手によって何が最適解か考えて、手段を変えていくってことですね。 鳥羽シェフ:お客様が何を望んでいるのかによってゴール設定を変えていきます。今回の場合はNIKKOのお皿なので、シンプルで馴染みのある目玉焼きが乗った貧乏人パスタ※のようなものを丸皿にサラッと盛り付けてもいいんですけど、それって既に誰かがやったことがあるし、この取材でわざわざ僕がやることではない。あえてラビオリ2種の前菜を小さめなオーバルに盛り付けて、かっこよく見えたらいいなって。自分なりに今回いただいたオファーの趣旨を理解して考えたんですけど、どうでした?でもメニュー自体は2分で考えました(笑)。 ※貧乏人パスタは、イタリアでは「スパゲッティ・ポヴェレッロ」と呼ばれている実在するメニュー。半熟目玉焼きを乗せたり麺と絡めたりした上にチーズをかけただけ、というシンプルなレシピながらも食材がない時にも美味しいものを食べたいというイタリアらしさが溢れるパスタ。 ガイドラインのあるお皿...

行方ひさこのLOST AND FOUNDなキッチン 鳥羽周作シェフ編

時代を明るくリードしてくれる、様々な分野にまつわるプロフェッショナルたち。そんなプロたちが選んだLOST AND FOUNDのアイテムと共にお送りする「行方ひさこのLOST ANDFOUNDなキッチン」。仕事、プライベート共にたくさんのものを見て、真摯に向き合ってきた彼らだからこその、なにかを選択する時の視点やこだわり、ものと向き合う姿勢などを掘り下げていきます。 鳥羽周作 J リーグの練習生、小学校の教員を経て、31 歳で料理の世界へ。2018年「sio」をオープン。同店はミシュランガイド東京 2020 から 4 年連続一つ星を獲得。現在、全国にいろいろな業態の8店舗を展開。モットーは『幸せの分母を増やす』。 今回は、ミシュランガイド東京で2020年から3年連続一つ星を獲得している代々木上原「sio」や、“架空のホテルのレストラン”をコンセプトにした青山「Hotel’s」など、日本各地で8店舗を展開する鳥羽周作シェフをゲストにお迎えしました。REMASTEREDに合う料理を作っていただきました。 幸せを増やす、という目的のための手段 鳥羽シェフ:早速なんですけれど、作りながらいきますよ! 根セロリとじゃがいものピューレを使ったタネでラビオリを作って、蛤のバターソースで和えます。1つはアンチョビを乗せるだけ。もう1つはスライスして丸型に抜いたカブを、毛蟹とりんごジャムとエシャロットのファルスで包んで、ラビオリの上に重ねて、最後にハーブを飾ろうかと。今回選んだ皿は、sioだったら半熟ゆで卵にアンチョビを乗せて出すのに使いたい皿なんですけど、それを前衛的な皿にしたくて。改めてこういう皿が見直されてる気がしてるんですよね。昔のパタゴニアがかっこいい!みたいな感じがあるじゃないですか。新しいブランドを合わせてコーディネートする感じ。そんな感じでいいですか? 行方:おぉ、早速ですね。もちろんです! 鳥羽シェフ:料理下手だからなー! 行方:いやいや。 鳥羽シェフ:技術ない系だから。 行方:またまたー。あ、そうだ!ミシュラン1つ星おめでとうございます。 鳥羽シェフ:ありがとうございます。いつも言ってることですけれど、大事なのは目的と手段だと思うんですよね。僕にとって、料理は手段!人を喜ばせるという目的の手段であって、料理をすることが目的ではないので、ミシュランを取りたい!っていう目的で仕事はしていないんです。ミシュランの星をいただくことは嬉しいですけれど、そこまで興味はないんです。 ものを生み出すことは、編集すること 今から作る皿(料理)は、お話をいただいた時に2分で思いついたんです。適当なわけではなく、いつもそうなんです。クリエイティブって生み出すんじゃなくて、編集することだと思うんですよ。 行方:そうですね、私もそう思います。 鳥羽シェフ:あるものをどういうふうにチューニングして作り上げるかだと思うので、生み出すって感覚ではないんです。なので、悩むって感覚もない。お店のコース料理は全部自分で考えているんですけれど、入浴中にNETFLIXを見ながら考えたりしています。むしろ、そういう方がいいんですよね。全て構成要素を因数分解して、その因数分解したものの羅列の変数を加味した上での編集作業だと思ってるんですよ。1つのお皿(料理)を作りたいと思ったら構成要素を全て挙げて、そのパワーバランスをどう編集していくかを考えていくので、作る前からフォーマットが決まっていて、あとはパズルをはめ込んでいく感覚。ビジネスもそういう感覚でやっています。クライアントが何を求めているかをまず1番に考える。そこから大事な要素を全て挙げて、そこにはめ込んでいく。僕はアホなんですけど、実はとっても細かいんです(笑)。料理に関しては手段なので、お客さまをどんな風に導きたいかを逆算で考えることが多い。だから、作りたい料理ってないんですよ。 行方:その時々の相手によって何が最適解か考えて、手段を変えていくってことですね。 鳥羽シェフ:お客様が何を望んでいるのかによってゴール設定を変えていきます。今回の場合はNIKKOのお皿なので、シンプルで馴染みのある目玉焼きが乗った貧乏人パスタ※のようなものを丸皿にサラッと盛り付けてもいいんですけど、それって既に誰かがやったことがあるし、この取材でわざわざ僕がやることではない。あえてラビオリ2種の前菜を小さめなオーバルに盛り付けて、かっこよく見えたらいいなって。自分なりに今回いただいたオファーの趣旨を理解して考えたんですけど、どうでした?でもメニュー自体は2分で考えました(笑)。 ※貧乏人パスタは、イタリアでは「スパゲッティ・ポヴェレッロ」と呼ばれている実在するメニュー。半熟目玉焼きを乗せたり麺と絡めたりした上にチーズをかけただけ、というシンプルなレシピながらも食材がない時にも美味しいものを食べたいというイタリアらしさが溢れるパスタ。 ガイドラインのあるお皿...

小林和人×幅允孝 1周年記念対談 vol.2 幅さんが小林さんに選んだ本の話

小林和人×幅允孝 1周年記念対談 vol.2 幅さんが小林さんに選んだ本の話

LOST AND FOUND旗艦店オープン1周年を記念して、プロダクトセレクターを務める小林和人さん(Roundabout, OUTBOUND オーナー)と、彼がラブコールを送ったBACH代表・幅允孝さんの対談が実現しました。今回は話が弾んだ対談の後半、幅さんが小林さんに本をオススメします。 空港での没収品を撮影した“LOST AND FOUND”な写真集 幅さん:まずは、オランダのアーティストでデザイナー、クリスチャン・メンデルツマの最初の卒業制作『Checked Baggage』を知っていますか?彼女はデザイナーとして世界的な注目を集めています。表紙の部分にカミソリやらナイフ?やらが入っているのですが、これも含めて一冊の本。実はこれ、飛行機に乗るときにカバンの中に爪切りやナイフが入っていたら、没収されてしまうじゃないですか。スキポール空港(アムステルダム)で出た、そんな1週間分の大量の没収品を1冊の写真集にまとめたんです。種類ごと、色ごとに、綺麗にページを分けて撮影されていて、完全にタイポロジーの世界ですよね。没収されたものを写真集にして、しかも没収された何かと一緒にパッケージするっていう、これ、LOST AND FOUND感ありません?小林さん:まさに!並びが美しいから、見ていて飽きないですね。(ページをめくりながら)爪切りもダメなんだ!幅さん:気をつけてくださいね。色々妄想が膨らみますよね。なんでこれを持ち込んだのだろうとか、朝慌ててたのかなとか。 小林さん:自分も店で商品の陳列をしていて、標本的な展示というのが念頭にありまして。幅さん:まさに、ですね。この本は2004年に1000冊の本が出版され、一冊ごとに没収された元の品物が手渡されています。しばらくレアブックと呼ばれていたのですが、このほどもう一度リプリントされました。2004年と2022年だと、やっぱり飛行機に乗ることの意味や、テロに対する考え方が変わってきていて。当時はまだ少しだけ“遊べる、笑える”といった感じだったのが、今はシリアスな感じになっていますね。飛行機に乗ってどこかにいくということ自体が、すごい希少価値に変わりつつある。円も安いし、コロナもなかなか治まらないし。そういったことを考えると、同じ本でも実は二度と同じようには読めないと思っています。時間を経て、パラパラとめくりながらちょっと考える部分があったりして。何かを説明したり、答えを与えてくれるものではないですが、考える余白は多い1冊なんじゃないかなぁと思って、選んでみました。小林さん:まさに重層的な価値を帯びた1冊ですね。改めてこの場で見ると価値を発見できて。嬉しいなぁ。 小林秀雄 目線で 美しいものを見たときの人間の感情を解いた一冊 幅さん:続いて、若松英輔さんの『小林秀雄 美しい花』を読んだことはありますか?若松さんは三田文學の編集長もしていた、詩人・批評家としても知られている方ですが、この本は小林秀雄の評伝ですね。彼なりに小林秀雄を肉薄して書いた一冊です。小林秀雄は文学批評大家であり、あらゆる“美”というものに対して探求を深めた人なので、最初はちょっと難しいと思うし、険しい目で睨まれているような感じもしちゃうかもしれません。でもこの1冊からスタートすると、小林秀雄という人の本当の魅力と、彼がすごく深いところに潜って考えていた理由がよくわかるんです。小林さん:僕はずっと、小林秀雄と数学者の岡 潔との対談、『人間の建設』が積んだままになっていて…。幅さん:岡潔は理数系の人ですからね。究極の理系と究極の文系の二人が一周回って共通項を見つけるという、あれは素晴らしい本ですね。小林秀雄が研究したランボオ、ドストエフスキイなど、直接そういう本を読むのも良いのですが、僕はまず小林秀雄氏の“人”みたいなものを知っていただいて、それからオリジナルにいっていただくのが良いかなと思います。で、なんでこれを小林さんに選んできたかというと…タイトルにもなっている、『美しい花がある。花の美しさという様なものはない』っていう有名な小林秀雄の言葉がありますが、若松英輔さんなりの考えを披露してくれているんです。やはり、美学を深めていた人だから、しかもそれを広めようと批評していた人だから、本来なら雄弁になるじゃないですか。美しいものに対していろんな言葉をあてがったり、美しさについて考えようとそれを定義したり、否定していこうとする。でも、本当に人が美しいものを見たとき、そんなに雄弁にはならないのではないか。人は黙る。そして、自らの手でものをつくりたくなるのではないか、ということを小林秀雄は言っている。それが本当に美しいものに出くわした時の人間の感情なのではなかろうか、ということを書いているんです。それを若松英輔さんがわかりやすく説明してくれています。結局自分も批評っていう、言葉を尽くして美を語ることしかできないけど、本当に様々な物づくりをしている人たちと同じような精度と、芯と深さみたいなものを持って、“批評”という書く行為をどうやって極めていくかを考えていた人ですね。小林さん:伴走者としての矜恃というのか、批評対象と同じ強度を持ってね。幅さん:やっぱり小林さんも美しいものって何だろうって、常に考えながら仕事をしているから。自分なりに言葉をうまくあてがって、美しさというものを何とか伝達しようとするわけですが、とはいえ、それってすごく難しいこと。難しいからこそ、それを生涯かけて挑んできた小林 秀雄という人の流れがわかります。そういう意味で、ぜひ小林 和人先生に読んでいただきたい。小林の仲間として。小林さん:それは是非とも読まねば、ですね。そういえば若松さんがラジオでお話しされているのを聞いて、熱い方だなと思った覚えがあります。幅さん:自分はすごく好きですね、彼のこと。この本では、小林秀雄が憑依したかのようです。小林さん:最近、ドフトエフスキイとか、学生時代に読んでおくべきだったような、所謂名作というか、そういうものを読まなくちゃいけないなと思っていて。幅さん:古典は重要ですね。小林さん:そうそう、ある方の本でにあったのだけど、『名作を体に通過させる』というのが必要だなと。短期的な意味じゃなくて、さっき幅さんが言ったように、遅効性みたいなことと重なるような意義があるかなって。幅さん:古い小説を、3分間であらすじだけ読んで、読んだ気になるみたいなことももちろんできるのですが、本当に主人公と自分の感情を重ねて、あの世界にすーっとゆったり潜っていく…読んでいて苦しいとか、そういうね。今はエンターテイメントが受動になってきている気がします。YouTubeでもなんでも、自分で選んでいるようで、アルゴリズムで勝手に再生されている。見ているというよりは、見せられているというか、自分の余白に注入されているような感じ。でも本のいい所って、読んでいる途中で止まったり、読み戻ったり、別の資料をあたったり…自分でコンテンツに接している時間をコントロールできること。あくまでも主体が自分で、ここ(本)にどう入っていけるのかが問われているという意味で、やっぱりちょっと違うんですよ、他のエンターテイメントとは。今は人間よりもシステムの方がどんどん上位にきていて、そこから落ちてくるもので時間を楽しく過ごしているのだけど、やっぱり僕は主体的に選んで、自分でいろんなことを判断できるように生きていきたいと思っています。そういう意味で、紙の本はしばらくやり続けます。小林さん:さっきチラッと苦しみという言葉が出ましたが、それって時として負荷を受け手にもたらすというかね。幅さん:やっぱり読書にも筋力がいるんですよ。長いものをずっと読むことをしばらく忘れていて、斜め読みに慣れすぎちゃうと、長いものを全然読めない。自分でもそう。でも頑張って読んでいると、だんだん戻ってくるんです。自転車と同じ、読み方は覚えていますからね。でもそういう意味で、本当に久方ぶりにしっかりとしたものをゆっくり、口の中で飴玉転がすように読むというのは、悪くないんじゃないかなぁと思います。ぜひ読んでみてください、3300円です(笑)。小林さん:でも、そこから得られるものはね!幅さん:すごいですよね。本は高い、高いって言われますが、一生読み続けられますからね。そう考えると本当にすごいものだと思います。――2回に渡り、小林和人さんと幅允孝さんの対談をお届けしました。編集という仕事に携わるお二人が選ぶモノゴトの話、いかがでしたでしょうか。画面の中で全てを完結できてしまう世の中ですが、自分で足を運んで手に取ってみる、もしくはページをめくってみる…そんな買い物や読書の時間を大切にしてみたくなったのでは?LOST AND FOUNDの2年目、皆さまの大切な時間を有意義なものにできるよう、これからも小林和人さんとともに楽しい店づくりをしていきます。 text by Sahoko Seki

小林和人×幅允孝 1周年記念対談 vol.2 幅さんが小林さんに選んだ本の話

LOST AND FOUND旗艦店オープン1周年を記念して、プロダクトセレクターを務める小林和人さん(Roundabout, OUTBOUND オーナー)と、彼がラブコールを送ったBACH代表・幅允孝さんの対談が実現しました。今回は話が弾んだ対談の後半、幅さんが小林さんに本をオススメします。 空港での没収品を撮影した“LOST AND FOUND”な写真集 幅さん:まずは、オランダのアーティストでデザイナー、クリスチャン・メンデルツマの最初の卒業制作『Checked Baggage』を知っていますか?彼女はデザイナーとして世界的な注目を集めています。表紙の部分にカミソリやらナイフ?やらが入っているのですが、これも含めて一冊の本。実はこれ、飛行機に乗るときにカバンの中に爪切りやナイフが入っていたら、没収されてしまうじゃないですか。スキポール空港(アムステルダム)で出た、そんな1週間分の大量の没収品を1冊の写真集にまとめたんです。種類ごと、色ごとに、綺麗にページを分けて撮影されていて、完全にタイポロジーの世界ですよね。没収されたものを写真集にして、しかも没収された何かと一緒にパッケージするっていう、これ、LOST AND FOUND感ありません?小林さん:まさに!並びが美しいから、見ていて飽きないですね。(ページをめくりながら)爪切りもダメなんだ!幅さん:気をつけてくださいね。色々妄想が膨らみますよね。なんでこれを持ち込んだのだろうとか、朝慌ててたのかなとか。 小林さん:自分も店で商品の陳列をしていて、標本的な展示というのが念頭にありまして。幅さん:まさに、ですね。この本は2004年に1000冊の本が出版され、一冊ごとに没収された元の品物が手渡されています。しばらくレアブックと呼ばれていたのですが、このほどもう一度リプリントされました。2004年と2022年だと、やっぱり飛行機に乗ることの意味や、テロに対する考え方が変わってきていて。当時はまだ少しだけ“遊べる、笑える”といった感じだったのが、今はシリアスな感じになっていますね。飛行機に乗ってどこかにいくということ自体が、すごい希少価値に変わりつつある。円も安いし、コロナもなかなか治まらないし。そういったことを考えると、同じ本でも実は二度と同じようには読めないと思っています。時間を経て、パラパラとめくりながらちょっと考える部分があったりして。何かを説明したり、答えを与えてくれるものではないですが、考える余白は多い1冊なんじゃないかなぁと思って、選んでみました。小林さん:まさに重層的な価値を帯びた1冊ですね。改めてこの場で見ると価値を発見できて。嬉しいなぁ。 小林秀雄 目線で 美しいものを見たときの人間の感情を解いた一冊 幅さん:続いて、若松英輔さんの『小林秀雄 美しい花』を読んだことはありますか?若松さんは三田文學の編集長もしていた、詩人・批評家としても知られている方ですが、この本は小林秀雄の評伝ですね。彼なりに小林秀雄を肉薄して書いた一冊です。小林秀雄は文学批評大家であり、あらゆる“美”というものに対して探求を深めた人なので、最初はちょっと難しいと思うし、険しい目で睨まれているような感じもしちゃうかもしれません。でもこの1冊からスタートすると、小林秀雄という人の本当の魅力と、彼がすごく深いところに潜って考えていた理由がよくわかるんです。小林さん:僕はずっと、小林秀雄と数学者の岡 潔との対談、『人間の建設』が積んだままになっていて…。幅さん:岡潔は理数系の人ですからね。究極の理系と究極の文系の二人が一周回って共通項を見つけるという、あれは素晴らしい本ですね。小林秀雄が研究したランボオ、ドストエフスキイなど、直接そういう本を読むのも良いのですが、僕はまず小林秀雄氏の“人”みたいなものを知っていただいて、それからオリジナルにいっていただくのが良いかなと思います。で、なんでこれを小林さんに選んできたかというと…タイトルにもなっている、『美しい花がある。花の美しさという様なものはない』っていう有名な小林秀雄の言葉がありますが、若松英輔さんなりの考えを披露してくれているんです。やはり、美学を深めていた人だから、しかもそれを広めようと批評していた人だから、本来なら雄弁になるじゃないですか。美しいものに対していろんな言葉をあてがったり、美しさについて考えようとそれを定義したり、否定していこうとする。でも、本当に人が美しいものを見たとき、そんなに雄弁にはならないのではないか。人は黙る。そして、自らの手でものをつくりたくなるのではないか、ということを小林秀雄は言っている。それが本当に美しいものに出くわした時の人間の感情なのではなかろうか、ということを書いているんです。それを若松英輔さんがわかりやすく説明してくれています。結局自分も批評っていう、言葉を尽くして美を語ることしかできないけど、本当に様々な物づくりをしている人たちと同じような精度と、芯と深さみたいなものを持って、“批評”という書く行為をどうやって極めていくかを考えていた人ですね。小林さん:伴走者としての矜恃というのか、批評対象と同じ強度を持ってね。幅さん:やっぱり小林さんも美しいものって何だろうって、常に考えながら仕事をしているから。自分なりに言葉をうまくあてがって、美しさというものを何とか伝達しようとするわけですが、とはいえ、それってすごく難しいこと。難しいからこそ、それを生涯かけて挑んできた小林 秀雄という人の流れがわかります。そういう意味で、ぜひ小林 和人先生に読んでいただきたい。小林の仲間として。小林さん:それは是非とも読まねば、ですね。そういえば若松さんがラジオでお話しされているのを聞いて、熱い方だなと思った覚えがあります。幅さん:自分はすごく好きですね、彼のこと。この本では、小林秀雄が憑依したかのようです。小林さん:最近、ドフトエフスキイとか、学生時代に読んでおくべきだったような、所謂名作というか、そういうものを読まなくちゃいけないなと思っていて。幅さん:古典は重要ですね。小林さん:そうそう、ある方の本でにあったのだけど、『名作を体に通過させる』というのが必要だなと。短期的な意味じゃなくて、さっき幅さんが言ったように、遅効性みたいなことと重なるような意義があるかなって。幅さん:古い小説を、3分間であらすじだけ読んで、読んだ気になるみたいなことももちろんできるのですが、本当に主人公と自分の感情を重ねて、あの世界にすーっとゆったり潜っていく…読んでいて苦しいとか、そういうね。今はエンターテイメントが受動になってきている気がします。YouTubeでもなんでも、自分で選んでいるようで、アルゴリズムで勝手に再生されている。見ているというよりは、見せられているというか、自分の余白に注入されているような感じ。でも本のいい所って、読んでいる途中で止まったり、読み戻ったり、別の資料をあたったり…自分でコンテンツに接している時間をコントロールできること。あくまでも主体が自分で、ここ(本)にどう入っていけるのかが問われているという意味で、やっぱりちょっと違うんですよ、他のエンターテイメントとは。今は人間よりもシステムの方がどんどん上位にきていて、そこから落ちてくるもので時間を楽しく過ごしているのだけど、やっぱり僕は主体的に選んで、自分でいろんなことを判断できるように生きていきたいと思っています。そういう意味で、紙の本はしばらくやり続けます。小林さん:さっきチラッと苦しみという言葉が出ましたが、それって時として負荷を受け手にもたらすというかね。幅さん:やっぱり読書にも筋力がいるんですよ。長いものをずっと読むことをしばらく忘れていて、斜め読みに慣れすぎちゃうと、長いものを全然読めない。自分でもそう。でも頑張って読んでいると、だんだん戻ってくるんです。自転車と同じ、読み方は覚えていますからね。でもそういう意味で、本当に久方ぶりにしっかりとしたものをゆっくり、口の中で飴玉転がすように読むというのは、悪くないんじゃないかなぁと思います。ぜひ読んでみてください、3300円です(笑)。小林さん:でも、そこから得られるものはね!幅さん:すごいですよね。本は高い、高いって言われますが、一生読み続けられますからね。そう考えると本当にすごいものだと思います。――2回に渡り、小林和人さんと幅允孝さんの対談をお届けしました。編集という仕事に携わるお二人が選ぶモノゴトの話、いかがでしたでしょうか。画面の中で全てを完結できてしまう世の中ですが、自分で足を運んで手に取ってみる、もしくはページをめくってみる…そんな買い物や読書の時間を大切にしてみたくなったのでは?LOST AND FOUNDの2年目、皆さまの大切な時間を有意義なものにできるよう、これからも小林和人さんとともに楽しい店づくりをしていきます。 text by Sahoko Seki

小林和人×幅允孝 1周年記念対談 vol.1 編集するということ

小林和人×幅允孝 1周年記念対談 vol.1 編集するということ

LOST AND FOUND旗艦店オープン1周年を記念して、プロダクトセレクターを務める小林和人さん(Roundabout, OUTBOUND オーナー)と、彼がラブコールを送ったBACH代表・幅允孝さんの対談が実現しました。 本を選ぶだけではないブックディレクターという仕事 小林さん:幅くんとはデザイン野郎の集いで会ったりしていますよね。幅さん:長い付き合いですね、小林くんとは。あまり仕事はご一緒しないんですけど、酒席でよく会うんですよ。小林さん:そうそう。楽しい場では会ってるんですけど、こういう場はあまりないですね。幅さん:酔って歌ってない和人を見たのは久しぶり。いつも『QUEEN』を裏声で熱唱してるんで(笑)。小林さん:コロナ禍でブランクあるんで、喉が閉じてきちゃってるかも(笑)!さて、幅くんは『ブックディレクター』として活躍していますが、どういった仕事なのでしょうか。幅さん:そうですね、ものすごく簡単に言うと図書館をつくる仕事をやっていまして、公共図書館から企業図書館、病院図書館まで。そこの、コンセプトと分類づくり、選書、配架、サイン計画や家具計画などをみることもあります。時間の奪い合いが激しい今、なかなか本を読んでもらえないじゃないですか。でもやっぱり本じゃないと伝わらないところってあるのではなかろうかと、個人的に思っていて。本を読むために『本を選ぶ』ということと、『読む環境を整える』つまり空間作りの両方を合わせた図書館作りが多いですね。小林さん:最近はどんな図書館を作りましたか?幅さん:9月1日にリニューアルした『神奈川県立図書館』を。実はまだ道半ばで。本館が新しくできたんですけど、ル・コルビュジエの愛弟子である前川 國男が1954年に初めて公共の図書館を作ったんです。その前川氏が作った公共図書館で今残ってるのは、国立国会図書館と神奈川県立図書館しかないんですよ。前川氏がつくった神奈川県立図書館を時代とともにちょっとずつ増床したり、少し強引に3階4階を作ったり。それで変わってしまったところをなるべくオリジナルの姿に戻し、現代の人に楽しんでもらえる場所として復活させるっていうプロジェクトを2026年にむかってやっていて、第一弾として、新しい本館はやりました。小林さん:E&Yの松澤 剛さんや二俣 公一さんが載っているデザイン誌の『AXIS』でプロジェクトについてのインタビュー記事を見ましたよ。幅さん:そうそう、その二人に家具を作ってもらって。昔って建築と家具が一体化していて、神奈川県立図書館も、前川氏の右腕だった水之江 忠臣さんという方が、図書館のために椅子をデザインした。で、それがリニューアルを繰り返して、今でもプロダクト化して残っているんです。そういう来歴を調べるほど、新しくできる本館も、今の日本のプロダクトデザイナーに図書館のための家具をデザインしてもらい、それが残り続けるような体制ができないだろうかって。それで先ほど話があったE&Y代表の松澤さんに相談したところ、中坊 壮介さんと二俣さんに、そのための椅子や机、ラウンジチェアを作ってもらって…。小林さん:場の歴史的文脈を継承していくということですね。幅さん:はい。話を本に戻すのであれば、昔だったら本なんてどこに置いていてもみんな読んでくれたのが、今は集中を阻むテクノロジーが沢山あるじゃないですか。3分集中するのも大変な世の中だから。時間の流れの遅い場所みたいなものを意図的に作らないと、人は読書に向かってくれないということで、読むための椅子だったり、ラウンジチェアを考えていきました。実際に二俣さんが作ったラウンジチェアが置いてある3階は、美術批評や芸術書など、深く潜って読むべき本がたくさん置いてある場所なんですけど、カーペットの毛足を長くして滞留時間をのばし、じっくり本を向かい合ってもらうとか。昔は『ブックディレクター』って本を選ぶだけの仕事という感じだったのが、本を読む周辺環境を整える、その本の差し出し方を考えるなども、仕事の範疇になってきています。おもしろいんだけれど、何屋さんかよくわからなくなってきている(笑)。小林さん:話をきくと、つくづく『編集』だなと思う。人がそこでどう過ごすか、それを実現するためにカーペットの毛足の長さひとつからね…。幅さん:違いますよね、毛足ひとつで。あと椅子の座面の高さと素材を変えるだけで全然違って、ちょっと読むためのスイッチを入れるというか。『本をいっぱい読みましょう』ってポスターを貼るよりは、気づいたら読んでいた、みたいな、そういう状況をどういうふうに作るかっていうのが大切です。 小林さんが幅さんにオススメするアイテム 汎用性の高いバイオプラスチックの買い物かご 小林さん:そんな仕事をしている幅くんですが!私はLOST AND FOUNDの商品セレクトを行なっていて、今回は幅くんにオススメのアイテムを3つ選んでみました。まずは『HINZA』というスウェーデン発のブランドのプラスチックバッグ(HINZA BAG)。脱プラに向かっているところで今なんでこれなのかっていうところなんですけど!幅さん:本当だよね。逆走だね。小林さん:実はこれ、サトウキビを原料としたバイオプラスチックが主原料なんですよ。そもそもは1950年代くらいまでスウェーデンの最王手のプラスチックメーカーが生産していて、買い物かごとして、また家で野菜を入れたりする家庭用で使われていたもの。60年代に使い捨ての時代になり、もう廃れちゃって、作られなくなってしまったんです。でもひ孫にあたる女性がパートナーの方と一緒に、2006年だったかな?復活させたもの。まさにLOST AND FOUNDだなって。幅さん:なんでこれが幅にオススメなんですか?小林さん:図書館に行くときにほら!幅さん:トートじゃダメなんですか(笑)?小林さん:トートはいいですよ。トートほど素晴らしいものはない!元々氷を入れる道具だったものに本を入れたりしているのだから、逆に買い物かごに本を入れるって、いいじゃないですか。幅さん:ただ正直言いますと、本は重いですよ!小林さん:大丈夫です。10kgまで耐えられます。アートディレクターの平林さんは、築地に買い物に行くときに使ってらっしゃるって。ドサっと入れても全く問題ないです。幅さん:確かにね、お魚とかの臭いがつかなそう。小林さん:そうそう、濡れたものも大丈夫ですし。家でお客さんが来たときにワインクーラーにもされているそうです。 巨匠がデザインした“無名性”ワインラック 小林さん:で、幅くんといえばワイン!幅さん:え、僕ワインというわけでは(笑)!お酒全般です。小林さん:ほら、荒木町の『HIBANA』っていうワインバーに連れていってもらったことがありましたよね。幅さん:名店ですね。小林さん:そうそう。そんなことを思い出しながら、おすすめしたいワインラック(REXITE CANTINA ワインラック)がありまして。12本収納できて連結もできるんですが、これ実は、エンツォ・マーリのデザインなんですよ。ぱっと見は“無名性”の塊のようにみえて、実はイタリアデザインの巨匠が手掛けているという意外性が面白いなと思って。エンツォ・マーリの仕事でまずこれを思い浮かべる人は極めて少ないと思うんだけど、敢えてそこに光を当てる。そのずらしがLOST AND FOUND的視点なんですよね。幅さん:エンツォ・マーリらしさでいうと、どのあたりにあると思う?小林さん:ひと言で言うと、哲学とロジックがこの“無名性”のなかに溶け込んでいるということなんじゃないかと。その意味では実はとてもエンツォ・マーリらしいプロダクトなのかもしれないです。そういえば、確かみすず書房から『プロジェクトとパッション』っていう…。幅さん:はい、素晴らしい本です。小林さん:エンツォ・マーリ先生のフィロソフィーに触れるべく、是非読みたいと思っていて。でも調べたらかなり高くなっちゃっていて!絶版になっちゃってるんですか?幅さん:今ね、どんどんリプリントをしなくなっちゃっているから。これは!っていうタイトルは値段の上がり方がすごい。特にハードカバーは高くて、『後から買おう』が、だんだん通用しない世の中になっていますね。本は早めに買った方がいいですよ。小林さん:そういうとき、図書館は助かるなと思っていて。幅さん:そうね、アーカイブズはやっぱりしっかりしてるからね。でもどういう本を紙束として手元に置いておき、どういう本をデジタルで…みたいな使い分けみたいなのに対して、多分人は意識的になってきていて。音楽とかもそうじゃないですか。なんでもSpotifyやApple Musicなどのサブスクリプションで聞けるけど、この1枚はレコードで持っといて、自分で針を落として聴きたい、という心持ちと同じような考え方。この1冊は紙で近くに置いておいて、気が付いたときに読んでみるとかね。まぁ是非図書館で読んでいただいて、気に入ったら探してみてください。近くに置いておくと、安心して忘れられるんですよ。小林さん:逆説的だけど、まさに。幅さん:視界に入ってるって、実はすごい安心する。いつも読むわけではないんだけど、あーこの本そういえば、ってね。小林さん:そうそう、幅くんが前に発言してた言葉ですごく印象的だったのが、『本は遅効性のメディアである』っていう…。幅さん:よく言いますね。今は即効性ばかりが求められていて。来週の月曜日の会議のためにとりあえず読んどくとか、1000円の本を2時間で読んだら1000円と2時間分の何かがほしいとか。そうせざるを得ないような世の中の流れはあるのかもしれないけど、本はどっちかというと、いつ芽が出るかわからない種まき的に、別に“何かのため”じゃなくて、無意味に読んでもいいっていうことも言っておかないと、どんどん堅苦しくなる。そういうことは昔から言ってましたね。 ガシガシ洗える“遅効性”布巾 小林さん:意味に規定されない価値っていうことだったり、いつかそれが逆に『こういう意味だったのか』って帰ってきたり。時間をかけて価値が醸成されていく、あるいは育っていく…そういう意味で、続いて『LIBECO』のベルギーリネンを使ったキッチンクロス(LIBECO キッチンクロス)をオススメします。いわゆる変哲も無い麻のクロスなんですが、時間をかけて使っていくととろみが増してね。幅さん:とろみ…布巾的“とろみ”とはなんですか。小林さん:落ち感というかね。繊維のハリからとろみへと変質していく感じ、手触りが変わっていくんですよ。もちろん僅かなハリは残りつつ、それの塩梅が絶妙なところで。。幅さん:遅効性布巾ですね(笑)。小林さん:(笑)いわゆるすぐ良さが発揮されるものとは違ったもので。幅さん:これは家でガシガシあらっていいの?乾燥機も許してくれる?小林さん:はい、ガシガシ洗って、乾燥機も使って大丈夫!幅さん:『LIBECO』、覚えておきます。おもしろいですね。さすがプロの目で集めてこられた物たちを堪能しました。――私たちの暮らしの中で、本を読むという行為が少なくなってきた昨今ですが、無意味に紙をめくる時間にしか得られないものはあり、そんな時間に連れて行ってくれるのが、幅さんの作る「図書館」という場です。それは、LOST...

小林和人×幅允孝 1周年記念対談 vol.1 編集するということ

LOST AND FOUND旗艦店オープン1周年を記念して、プロダクトセレクターを務める小林和人さん(Roundabout, OUTBOUND オーナー)と、彼がラブコールを送ったBACH代表・幅允孝さんの対談が実現しました。 本を選ぶだけではないブックディレクターという仕事 小林さん:幅くんとはデザイン野郎の集いで会ったりしていますよね。幅さん:長い付き合いですね、小林くんとは。あまり仕事はご一緒しないんですけど、酒席でよく会うんですよ。小林さん:そうそう。楽しい場では会ってるんですけど、こういう場はあまりないですね。幅さん:酔って歌ってない和人を見たのは久しぶり。いつも『QUEEN』を裏声で熱唱してるんで(笑)。小林さん:コロナ禍でブランクあるんで、喉が閉じてきちゃってるかも(笑)!さて、幅くんは『ブックディレクター』として活躍していますが、どういった仕事なのでしょうか。幅さん:そうですね、ものすごく簡単に言うと図書館をつくる仕事をやっていまして、公共図書館から企業図書館、病院図書館まで。そこの、コンセプトと分類づくり、選書、配架、サイン計画や家具計画などをみることもあります。時間の奪い合いが激しい今、なかなか本を読んでもらえないじゃないですか。でもやっぱり本じゃないと伝わらないところってあるのではなかろうかと、個人的に思っていて。本を読むために『本を選ぶ』ということと、『読む環境を整える』つまり空間作りの両方を合わせた図書館作りが多いですね。小林さん:最近はどんな図書館を作りましたか?幅さん:9月1日にリニューアルした『神奈川県立図書館』を。実はまだ道半ばで。本館が新しくできたんですけど、ル・コルビュジエの愛弟子である前川 國男が1954年に初めて公共の図書館を作ったんです。その前川氏が作った公共図書館で今残ってるのは、国立国会図書館と神奈川県立図書館しかないんですよ。前川氏がつくった神奈川県立図書館を時代とともにちょっとずつ増床したり、少し強引に3階4階を作ったり。それで変わってしまったところをなるべくオリジナルの姿に戻し、現代の人に楽しんでもらえる場所として復活させるっていうプロジェクトを2026年にむかってやっていて、第一弾として、新しい本館はやりました。小林さん:E&Yの松澤 剛さんや二俣 公一さんが載っているデザイン誌の『AXIS』でプロジェクトについてのインタビュー記事を見ましたよ。幅さん:そうそう、その二人に家具を作ってもらって。昔って建築と家具が一体化していて、神奈川県立図書館も、前川氏の右腕だった水之江 忠臣さんという方が、図書館のために椅子をデザインした。で、それがリニューアルを繰り返して、今でもプロダクト化して残っているんです。そういう来歴を調べるほど、新しくできる本館も、今の日本のプロダクトデザイナーに図書館のための家具をデザインしてもらい、それが残り続けるような体制ができないだろうかって。それで先ほど話があったE&Y代表の松澤さんに相談したところ、中坊 壮介さんと二俣さんに、そのための椅子や机、ラウンジチェアを作ってもらって…。小林さん:場の歴史的文脈を継承していくということですね。幅さん:はい。話を本に戻すのであれば、昔だったら本なんてどこに置いていてもみんな読んでくれたのが、今は集中を阻むテクノロジーが沢山あるじゃないですか。3分集中するのも大変な世の中だから。時間の流れの遅い場所みたいなものを意図的に作らないと、人は読書に向かってくれないということで、読むための椅子だったり、ラウンジチェアを考えていきました。実際に二俣さんが作ったラウンジチェアが置いてある3階は、美術批評や芸術書など、深く潜って読むべき本がたくさん置いてある場所なんですけど、カーペットの毛足を長くして滞留時間をのばし、じっくり本を向かい合ってもらうとか。昔は『ブックディレクター』って本を選ぶだけの仕事という感じだったのが、本を読む周辺環境を整える、その本の差し出し方を考えるなども、仕事の範疇になってきています。おもしろいんだけれど、何屋さんかよくわからなくなってきている(笑)。小林さん:話をきくと、つくづく『編集』だなと思う。人がそこでどう過ごすか、それを実現するためにカーペットの毛足の長さひとつからね…。幅さん:違いますよね、毛足ひとつで。あと椅子の座面の高さと素材を変えるだけで全然違って、ちょっと読むためのスイッチを入れるというか。『本をいっぱい読みましょう』ってポスターを貼るよりは、気づいたら読んでいた、みたいな、そういう状況をどういうふうに作るかっていうのが大切です。 小林さんが幅さんにオススメするアイテム 汎用性の高いバイオプラスチックの買い物かご 小林さん:そんな仕事をしている幅くんですが!私はLOST AND FOUNDの商品セレクトを行なっていて、今回は幅くんにオススメのアイテムを3つ選んでみました。まずは『HINZA』というスウェーデン発のブランドのプラスチックバッグ(HINZA BAG)。脱プラに向かっているところで今なんでこれなのかっていうところなんですけど!幅さん:本当だよね。逆走だね。小林さん:実はこれ、サトウキビを原料としたバイオプラスチックが主原料なんですよ。そもそもは1950年代くらいまでスウェーデンの最王手のプラスチックメーカーが生産していて、買い物かごとして、また家で野菜を入れたりする家庭用で使われていたもの。60年代に使い捨ての時代になり、もう廃れちゃって、作られなくなってしまったんです。でもひ孫にあたる女性がパートナーの方と一緒に、2006年だったかな?復活させたもの。まさにLOST AND FOUNDだなって。幅さん:なんでこれが幅にオススメなんですか?小林さん:図書館に行くときにほら!幅さん:トートじゃダメなんですか(笑)?小林さん:トートはいいですよ。トートほど素晴らしいものはない!元々氷を入れる道具だったものに本を入れたりしているのだから、逆に買い物かごに本を入れるって、いいじゃないですか。幅さん:ただ正直言いますと、本は重いですよ!小林さん:大丈夫です。10kgまで耐えられます。アートディレクターの平林さんは、築地に買い物に行くときに使ってらっしゃるって。ドサっと入れても全く問題ないです。幅さん:確かにね、お魚とかの臭いがつかなそう。小林さん:そうそう、濡れたものも大丈夫ですし。家でお客さんが来たときにワインクーラーにもされているそうです。 巨匠がデザインした“無名性”ワインラック 小林さん:で、幅くんといえばワイン!幅さん:え、僕ワインというわけでは(笑)!お酒全般です。小林さん:ほら、荒木町の『HIBANA』っていうワインバーに連れていってもらったことがありましたよね。幅さん:名店ですね。小林さん:そうそう。そんなことを思い出しながら、おすすめしたいワインラック(REXITE CANTINA ワインラック)がありまして。12本収納できて連結もできるんですが、これ実は、エンツォ・マーリのデザインなんですよ。ぱっと見は“無名性”の塊のようにみえて、実はイタリアデザインの巨匠が手掛けているという意外性が面白いなと思って。エンツォ・マーリの仕事でまずこれを思い浮かべる人は極めて少ないと思うんだけど、敢えてそこに光を当てる。そのずらしがLOST AND FOUND的視点なんですよね。幅さん:エンツォ・マーリらしさでいうと、どのあたりにあると思う?小林さん:ひと言で言うと、哲学とロジックがこの“無名性”のなかに溶け込んでいるということなんじゃないかと。その意味では実はとてもエンツォ・マーリらしいプロダクトなのかもしれないです。そういえば、確かみすず書房から『プロジェクトとパッション』っていう…。幅さん:はい、素晴らしい本です。小林さん:エンツォ・マーリ先生のフィロソフィーに触れるべく、是非読みたいと思っていて。でも調べたらかなり高くなっちゃっていて!絶版になっちゃってるんですか?幅さん:今ね、どんどんリプリントをしなくなっちゃっているから。これは!っていうタイトルは値段の上がり方がすごい。特にハードカバーは高くて、『後から買おう』が、だんだん通用しない世の中になっていますね。本は早めに買った方がいいですよ。小林さん:そういうとき、図書館は助かるなと思っていて。幅さん:そうね、アーカイブズはやっぱりしっかりしてるからね。でもどういう本を紙束として手元に置いておき、どういう本をデジタルで…みたいな使い分けみたいなのに対して、多分人は意識的になってきていて。音楽とかもそうじゃないですか。なんでもSpotifyやApple Musicなどのサブスクリプションで聞けるけど、この1枚はレコードで持っといて、自分で針を落として聴きたい、という心持ちと同じような考え方。この1冊は紙で近くに置いておいて、気が付いたときに読んでみるとかね。まぁ是非図書館で読んでいただいて、気に入ったら探してみてください。近くに置いておくと、安心して忘れられるんですよ。小林さん:逆説的だけど、まさに。幅さん:視界に入ってるって、実はすごい安心する。いつも読むわけではないんだけど、あーこの本そういえば、ってね。小林さん:そうそう、幅くんが前に発言してた言葉ですごく印象的だったのが、『本は遅効性のメディアである』っていう…。幅さん:よく言いますね。今は即効性ばかりが求められていて。来週の月曜日の会議のためにとりあえず読んどくとか、1000円の本を2時間で読んだら1000円と2時間分の何かがほしいとか。そうせざるを得ないような世の中の流れはあるのかもしれないけど、本はどっちかというと、いつ芽が出るかわからない種まき的に、別に“何かのため”じゃなくて、無意味に読んでもいいっていうことも言っておかないと、どんどん堅苦しくなる。そういうことは昔から言ってましたね。 ガシガシ洗える“遅効性”布巾 小林さん:意味に規定されない価値っていうことだったり、いつかそれが逆に『こういう意味だったのか』って帰ってきたり。時間をかけて価値が醸成されていく、あるいは育っていく…そういう意味で、続いて『LIBECO』のベルギーリネンを使ったキッチンクロス(LIBECO キッチンクロス)をオススメします。いわゆる変哲も無い麻のクロスなんですが、時間をかけて使っていくととろみが増してね。幅さん:とろみ…布巾的“とろみ”とはなんですか。小林さん:落ち感というかね。繊維のハリからとろみへと変質していく感じ、手触りが変わっていくんですよ。もちろん僅かなハリは残りつつ、それの塩梅が絶妙なところで。。幅さん:遅効性布巾ですね(笑)。小林さん:(笑)いわゆるすぐ良さが発揮されるものとは違ったもので。幅さん:これは家でガシガシあらっていいの?乾燥機も許してくれる?小林さん:はい、ガシガシ洗って、乾燥機も使って大丈夫!幅さん:『LIBECO』、覚えておきます。おもしろいですね。さすがプロの目で集めてこられた物たちを堪能しました。――私たちの暮らしの中で、本を読むという行為が少なくなってきた昨今ですが、無意味に紙をめくる時間にしか得られないものはあり、そんな時間に連れて行ってくれるのが、幅さんの作る「図書館」という場です。それは、LOST...