小林和人が選んだもの「ヤカンの話」

2021/05/13

ひとつの物について深く探っていくことで、物選びがグッと楽しくなる。 この連載では、LOST AND FOUND セレクター・⼩林和⼈さんが、このお店で選んだアイテムの中から毎回ひとつをピックアップし、とことん話します。
今回⼩林さんが話してくれたのは、Belmont の「ファイヤースクエアケトル」についてです。



絵になるヤカンですよね。 ありそうでないヤカンを探していたんです。そしたら Belmontという新潟のアウトドア製品のメーカーのヤカンにたどり着いた。ボディからハンドルまで全てステンレスの鏡面仕上げが美しく、⼀⽬で気に⼊りました。

物と形の必然性が直結している“物”

ヤカンて、結構場所を取るもの。でもこれはハンドルを折りたためて、重ねて収納もできる。本棚にしまいたくなるくらい。それはまずいか(笑)。

このケトル、初めて⾒る姿ではあれど、どこかの軍の装備品にありそうな…。独⾃のキャラクターを感じながらも、同時に普遍性を感じるんです。それはなぜかというと、そのもの⾃体が必然性を体現しているから。この形もきっと奇をてらったわけではなく、おそらく収納性と熱効率の両立を追求することによって⽣まれた姿なんじゃないかなと、想像できます。そういう物の形と必然性が直結している“物”を選びたいですね。

視点を変えることでさらに光る物

⼀番気に⼊っているのは、つまみの部分。バネのようにカチャっと折りたためるようになっているのですが、持ち⼿だけが削り出しの真鍮なんです。ソリッドな感じで。ディティールのちょっとしたところで印象が⼤きく違ってきますよね。
機能⾯でいうと、底⾯積が広く確保されているので、早く沸くというメリットもちゃんとあります。中に茶こしが付いているので、お茶っ葉を⼊れて煮出し、そのまま冷蔵庫で冷やしても良いですよね。
実はこれ、もともと家庭用として販売されている既存のヤカンをキャンプ用にモディファイした製品なんですが、それをまた敢えて家で使うものとして捉え直すというのがLOST AND FOUND的な道具選びの視点かなと思っています。そうやって視点を変えることでさらに光る物って、世の中には結構あるはずなんです。特にキャンプ⽤品には、掘っていくと⾒⽴て次第で家使いにも良い物がたくさんあるんじゃないかな。

ヤカンて皆さん持っていると思うんですが、これは既に持っているヤカンとは競合しないはず。だから贈り物にもすごくいいなと。サブ的な位置付けの、「⼆つ⽬のヤカン」としても使えると思います。
でも、ハンドルは熱くなるので布で持った⽅が良いですよ。


「あり方が自然な物、もともと存在していたかのような顔をしている物を選びたい」
これは小林さんの物選びの基準のひとつだそうです。
ファイヤースクエアケトルは、考え抜かれた機能性を携え、しかしどこの食卓にもすっと馴染んでしまいそうな佇まいで、私たちの生活を彩ってくれるはず。

<記事内紹介商品>

小林 和人 kazutokobayashi
1975年東京都生まれ。1999年多摩美術大学卒業後、国内外の生活用品を扱う「Roundabout」を吉祥寺にオープン(2016年に代々木上原に移転)。2008年には非日常にやや針の振れた温度の品々を展開する「OUTBOUND」を始動。両店舗のすべての商品のセレクトや店内ディスプレイ、展覧会の企画を手がける。
LOST AND FOUND」ではセレクターを務める。

interview & text by Sahoko Seki
photo by Naoki Yamashita

※記事に価格の掲載がある場合、表示価格は投稿当時のものとなります。

記事一覧に戻る