小林和人が選んだもの「コームの話」

2021/06/09

ひとつの物について深く探っていくことで、物選びがグッと楽しくなる。 この連載では、LOST AND FOUND セレクター・⼩林和⼈さんが、このお店で選んだアイテムの中から毎回ひとつをピックアップし、とことん話します。
今回⼩林さんが話してくれたのは、KENT の「メンズ 折畳式ポケットクリップ付コーム」についてです。


演劇的な瞬間が、日常に抑揚を生む

シャツのポケットに刺したコームを取ってサッと、とかす。
そういう、ちょっとミュージカル的な仕草って消えつつあるじゃないですか。その“キザな所作”が失われつつあることに、寂しさを覚える今⽇この頃。
演劇的な瞬間が差し込まれることで、平坦な⽇常にちょっとした抑揚が⽣まれたら良いなと。指パッチンまではしませんが(笑)。
あと、⽇頃から思うのが、⾝だしなみがエスカレートすると気合⼊れた⾼校球児みたいに眉⽑整え始めちゃったりして、あそこまでいっちゃうと逆に引いちゃうんですよね。さじ加減が肝⼼というか。逆に髭はいくらでも⼿を⼊れていいと個⼈的には思っています。眉⽑を整えるくらいなら、このコームで髭をグルーミングして欲しいですね。(そう⾔って髭をとかす仕草をする⼩林さん)

KENT という歴史あるブランドは、コームに刻まれた⽂字の書体とか、クラシックな感じがいい。コーム⾃体、昔からあるような佇まいなんですよね。頑なに、自分のスタイルを守っていて。
物選びにおいては、こういった⼀貫した美意識の軸を持つメーカーに強く惹かれますね。ブランドの価値というのは掘り下げると結局そこに⾏き着くと思うんですよね。

折りたたみ欲が成仏する

ポケットコームといえば KENT という認識は持ってはいましたが、この⼆つ折りのコームの存在は新鮮でした。折りたためるという点が、⼀番気に⼊っていますね。実は折りたたみ好きなんです。“折りたたみ”とか“⼊れ⼦”とか…そういうギミックが好き。
⼦供の頃、筆箱に何⾯あるかを友達と競ったりしていましたよね。鉛筆削りがあったり、消しゴム⼊れがあったり…そういう隠された仕組みに惹かれます。って⾔っても、このコームの折り畳み機構はバレバレですけどね(笑)。
昔、アニメの超合⾦の玩具を親に買ってもらったら、廉価版だったため変型しないことが後で分かってガッカリしたことがあるんですが、この KENT の折り畳みポケットコームがあれば、その時満たされなかった「折りたたみ欲」が成仏しそうです。



物を選ぶとき、「⽣活に必要不可⽋かどうか」という基準ももちろん⼤事ですが、ささやかな個⼈的欲求を満たすものだったり、⽇常の中のちょっとしたアクセントとなるような・・・、そんな視点も⼤事なのかもしれない。
コームを使っている⽗の所作を想像して、イケてる!とニヤケテしまった⽅、⽗の⽇の贈り物にしてみては?

<記事内紹介商品>

小林 和人 kazutokobayashi
1975年東京都生まれ。1999年多摩美術大学卒業後、国内外の生活用品を扱う「Roundabout」を吉祥寺にオープン(2016年に代々木上原に移転)。2008年には非日常にやや針の振れた温度の品々を展開する「OUTBOUND」を始動。両店舗のすべての商品のセレクトや店内ディスプレイ、展覧会の企画を手がける。
LOST AND FOUND」ではセレクターを務める。
interview & text by Sahoko Seki
photo by Naoki Yamashita

※記事に価格の掲載がある場合、表示価格は投稿当時のものとなります。

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