「継ぐを繋ぐ、その一歩に」金継ぎワークショップの裏側

2024/06/07

堤淺吉漆店(ツツミアサキチウルシテン)

日光東照宮をはじめ、国宝・重要文化財建造物の修復や、国内外の漆芸作家、職人たちに漆を提供する漆原材料メーカー。日本産漆取り扱いトップシェア。一方で、近年の漆需要減少に危機感を感じ、2016年から漆普及活動「うるしのいっぽ」を始動。さらに漆の新しい価値観や可能性を伝える「BEYOND TRADITION」を立ち上げ、環境負荷のない漆塗り木製サーフボードをアイコンに「人と地球にやさしい漆の価値」を世界に発信。さらに木と漆のストロー/suwなど、循環可能なプロダクトも制作し、共感を呼んでいる。2024年4月には漆や工芸をつなぐ新たな拠点「Und.」をオープン。漆を軸に、衣食住様々なワークショップや漆芸教室「うるしの学校」も展開する。
第三回三井ゴールデン匠賞授賞。ジャパンクラフト21第一回ロニー賞授賞。

Instagram: @tsutsumi_urushi

LOST AND FOUNDで不定期に開催しているワークショップの中でも、堤淺吉漆店の「金継ぎコフレ」を使用した金継ぎは一二を争う高い人気があります。そんな人気ワークショップで講師を努めるのは、堤浅吉漆店のパートナーである、漆芸家の間瀬春日さんです。今回は、間瀬さんから漆にまつわるお話しをうかがいます。

継続的に漆と向き合うために

間瀬さんは金沢美術工芸大学で漆について学んだ後、東京芸術大学の「保存修復工芸研究室」で文化財保存学を勉強しながらご自分で作品をつくる作家活動もされています。恩師の先生が「100年後には自分の作った作品もどうなっているのか分からない。」と話しているのを聞き、耐久性のある強い作品をつくるように心がけないといけないということと、誰かが保存や修復をしなければならないと思ったのがきっかけだったそう。なかなか専門的に学ぶ人が少ない保存修復学ですが、長く漆の仕事ができるように制作と修復を継続していけたらと話してくれました。

保存修復の研究をすることで、美術館の学芸員よりも近くで古くて貴重な作品に触れることができます。そして、研究を通じて、自分で作品を作るだけだと出会えないような美しさや合理性を学べることは、間瀬さんの今後のクリエーションにも日本の工芸にも大きな役割があるのではないでしょうか。

漆もいろんな顔があると知ってもらいたい!

間瀬さんは、ご自身で金継ぎすることで生き返らせた器のブランド「KISSAKO」も展開されています。陶芸作家さんから、割れててしまったものを安価で仕入れたり、骨董屋にある割れ物コーナーから購入した器たちに、新たな息を吹き込んでいます。「KISSAKO」とは、もともと「楽にして、お茶を一杯召し上がれ」という意味の禅語「喫茶去」からきています。喫茶去があらわす「余裕」を日々の暮らしの中に作りたい、そんな想いから生まれたブランドです。

金継ぎというと、金で継ぐ煌びやかなイメージがありますが、このKISSAKOは色のついた漆を使用しています。漆にもこんなものがあるんだ!ということを知ってもらいたいという想いと、漆だからというよりも「色やデザインで選んでもらったものが、結果漆だった」でもいいよねという、このプロダクトには実験的要素が強いといいます。

そんな色漆が想定以上に好反応で、個人的な金継ぎの依頼も色漆で頼まれることが多くなってきたとのこと。漆に顔料を混ぜるだけで気軽に作ることができるので、調合によりさまざまな色の漆が手軽に作れるそうです。

今回は、「金継ぎ」とは言いますが金だけではない楽しみをご紹介させていただきました。

手にしたもの、受け継いだものを大切にしていくことはもちろんですが、誰かの手に渡る前に割れてしまった器や、長く人の手に渡り残ってきた器に息を吹き込んで蘇らせたものというのも、また同じく今後大切にしていくべき物。堤淺吉漆店の金継ぎコフレを使用した金継ぎワークショップが、そんな想いを繋いでいくはじめの一歩になることを切に願っています。

ワークショップの体験レポート記事はこちらから

Text Hisako Namekata

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