小林和人が選んだもの 「ほうきの話」

ひとつの物について深く探っていくことで、物選びがグッと楽しくなる。
この連載では、LOST AND FOUNDセレクター・小林和人さんが、このお店で選んだアイテムの中から毎回ひとつをピックアップし、とことん話します。
今回小林さんが話してくれたのは、ほうきについてです。

ノーストレスな掃除用具

便利な装置がどんどん発達している現代に、そもそも何故ほうきなのかー。
ほうきの優れた点は、“起動時間0秒”、握った瞬間に使えるところではないでしょうか。
掃除機は大体しまってあるものなので、ちょっと掃除したいというときに引っ張り出すのが面倒。ほうきなら電源コードや充電、音のストレスからも解放されますよ(笑)。
ほうきの毛はナイロンだと摩擦で丸まったりするので、自然素材を使ったものが好きです。スウェーデンの老舗ブラシブランド「IRIS HANTVERK」の馬毛が使われているほうきはしなやかで細かい埃まで取ることができ、その上耐久性もあるので、自分の店(OUTBOUND)では毎朝の掃除に使っています。

形状ごとの細やかな働き

ほうきには、扉の桟や床の隅、高いところ…埃がたまりやすいあらゆる隙間をサッと綺麗にできる手軽さがありますよね。
暮らしに合った使い勝手の良いほうきを選ぶのも楽しい。例えばドイツの老舗生活用品ブランド「REDECKER」の小ぶりな手ほうきは玄関ポーチをはいたり、家の中のデスクをさっときれいにしたり。馬毛の大きなものはワックスをかけたフローリングなど、傷をつけたくない床の掃除に。サイズや形によってそれぞれの働きをしてくれるので、いくつあっても嬉しいものです。

ほうきらしいほうきの、美しい佇まい

インテリアのアクセントになるところも魅力です。魔女が乗っているような赤い柄のほうきは「REDECKER」のもの。お子さんが遊びながら掃除を手伝ってくれるかもしれないですね(笑)。おもちゃっぽさがあり、飾るも良しですよね。
今の時代にこんな“ほうきらしい”ほうきを持っていると、逆にとても新鮮な気持ちになります。部屋の見えるところに置いたりかけたりして、その佇まいを愉しむのも素敵です。

名ブランドの強く温かい繋がり

今回紹介した二つのブランド「IRIS HANTVERK」と「REDECKER」は、実は共通項があります。
REDECKERの歴史は、創業者、フリーデル・レデッカーが子供のころに視力を失い、盲学校でブラシ作りの技術を学んだことがきっかけとなって始まったそうです。以降、家族経営で、職人たちが手作業で一つひとつ丁寧にブラシを中心とした道具を作っています。環境保護に努める姿勢や、よりよい物を作ろうとするクラフトマンシップに共感を覚えます。
一方、IRIS HANTVERKの歴史は、ある博士が設立した視覚障害のある職人のための救貧院だと言います。スウェーデンの視覚障害者団体との強いつながりの中、紆余曲折ありながら、現在は様々な文化圏出身の視覚障害のある職人6名が、ストックホルム南部の工房でブラシ作りに取り組んでいます。
REDECKERもIRIS HANTVERKも、いずれも世界中に知られるブランドでありながら、どちらも小さな規模を保ったまま職人たちが伝統に則ったもの作りをしています。
英語でブラシ作りは「brush binding」などと表現するそうですが、この二つのブランドからはまさに工房の仕事に従事する人たちの同志の「結びつき」みたいなものを感じます。
企業背景も合わせて心から良いと思える物を大事に使っていきたいですね。

 

小林 和人 @kazutokobayashi
1975年東京都生まれ。1999年多摩美術大学卒業後、国内外の生 活用品を扱う「Roundabout」を吉祥寺にオープン(2016年に代々木上原に移転)。2008年には非日常にやや針の振れた温度の品々を展開する「OUTBOUND」を始動。両店舗のすべての商品のセレクトや店内ディスプレイ、展覧会の企画を手がける。
「LOST AND FOUND」ではセレクターを務める。

interview & text by Sahoko Seki
photo by Yuki Furue

 

※記事に価格の掲載がある場合、表示価格は投稿当時のものとなります。

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