Feb 05.2024

小林和人が選んだもの 「カトラリーの話」

ひとつの物について深く探っていくことで、物選びがグッと楽しくなる。
この連載では、LOST AND FOUNDセレクター・小林和人さんが、このお店で選んだアイテムの中から毎回ひとつをピックアップし、とことん話します。

今回小林さんが話してくれたのは、カトラリーについてです。

TPOに合わせたカトラリー選び

小林さん:カトラリー選びにもTPOがあって良いのではないかと思います。一般的に身に纏うものに関してはドレスコードを気にするじゃないですか。ディナーに行くときはジャケット、ビジネスではスーツにネクタイ、休日は犬の散歩で3本ラインのジャージ上下にポークパイハット、日差しが強ければカザールを取り出して…、場所や時間、状況によって身につけるものを変えるように、カトラリーも使い分けたら楽しいと思うんですよね。

意外と知らないカトラリーの歴史

小林さん:カトラリーの歴史を紐解くと、最も早くテーブルに登場したのは、スプーンでもフォークでもなく、ナイフだったそうです。ナイフの先が尖っていて、突き刺して食べていたのだそう。前にテレビで見たのですが、「ナイフの先が丸くなったのはなぜでしょう」というお題があったんです。時は17世紀、食事の後に爪楊枝のようにナイフで歯の掃除をしだす人々を見兼ねたルイ13世の宰相だったリシュリュー枢機卿が、「ナイフの先は丸くしろ!」と言ったのが有力な説(笑)。そうしてナイフが丸くなり、一方でスプーンやフォークが加わって…今のカトラリーの姿に収斂されていったという流れを想像すると、またロマンが止まらないですね。

ハレのカトラリー

小林さん:そこで最初に紹介したいのが、「BROGGI(ブロッジ)」というシリーズで、言うなればカトラリーの原型のような、クラシックなラインです。
何かと華美になりすぎるきらいがあるカトラリーですが、それはそれで辿ってきた歴史を示しているかもしれないし、装飾的なテーブルを彩る役割を果たすかもしれません。でも僕はこのクラシックな面影を残しつつ、必要最低限の要素でできている、所謂フォークらしいフォーク、スプーンらしいスプーン、ナイフらしいナイフという佇まいがやっぱり好きですし、現行のもので探しても意外に見つからないんです。
記念日にテーブルクロスを引いて、ボーンチャイナのREMASTEREDや、ちょっといいワイングラスを並べた特別な食事に良いと思います。そこから「花を飾ろうかな」「せっかくだからブラインドも掃除しようかな」(もちろんそんな時はレデッカーのブラシを使って!)…、といった、気分を高めていくひとつひとつの小さな儀式が、カトラリーを起点として広がっていくとしたらいいですよね。
以前ある方から、娘さんのために毎年一本ずつちょっと良いカトラリーをプレゼントしているという話を聞いたのですが、素敵ですよね。一度に全てを揃えるのは大変ですが、良いものを毎年1本ずつ増やしていくという、ブロッジはそんな”ハレ“のカトラリーです。

家庭のメインカトラリー

小林さん:次に紹介するのは、ドイツ「PICARD&WIELPUTZ(ピカード ヴィールプッツ)」というブランドの「カリスマ」シリーズ。ドイツというと質実剛健なイメージがありますが、これはちょっと優美な印象を受けます。ステンレスでできていて手頃な価格です。
華やかさもありつつデイリーに使える位置付けですかね。ディナーと言っても、仲間と和やかに会話を楽しむ食事のイメージ。家庭のメインカトラリーとしても良いと思います。
余談ですが、90年代にCharizma(カリズマ)というラッパーがいて、DJのPeanut Butter Wolf(ピーナッツ・バター・ウルフ)とコンビを組んでいたんですよ。このカリスマシリーズのナイフでピーナッツバターを塗ったトーストを味わいながら、ヒップホップが一番輝いていた頃に想いを馳せながらむせび泣くのも一興かもしれません。

朝昼の日常カトラリー

小林さん:最後に紹介するのは「MEPRA(メプラ)」というイタリアのメーカーの「ストッコルマ」というシリーズ。指紋や傷が目立ちづらいサテン仕上げを選んでいます。
日々の朝食、或いはカフェやダイナーで気兼ねなく使えるもの。手頃な価格でありながら、厚みがあって、持ったときの程よい重量感が気に入っています。
一人暮らしを始める若者の初めてのカトラリーにも良いかもしれないですね。

人生において、家で食事をすることが一番多いはず。ならばその時間を彩ることを、思い切り楽しみたいものですよね。”TPOに合わせたカトラリー選び“、何とも豊かな時間だとは思いませんか?

小林 和人 @kazutokobayashi
1975年東京都生まれ。1999年多摩美術大学卒業後、国内外の生 活用品を扱う「Roundabout」を吉祥寺にオープン(2016年に代々木上原に移転)。2008年には非日常にやや針の振れた温度の品々を展開する「OUTBOUND」を始動。両店舗のすべての商品のセレクトや店内ディスプレイ、展覧会の企画を手がける。
「LOST AND FOUND」ではセレクターを務める。

interview & text by Sahoko Seki
photo by Naoki Yamashita

※記事に掲載されている価格は、投稿当時のものとなります。