オープン2周年記念 NIKKO三谷直輝×小林和人さん対談 「LOST AND FOUNDのこれまでとこれからと」

オープン2周年を記念して、LOST AND FOUND立上げのプロジェクトリーダー NIKKO三谷専務が熱望して叶った、小林和人さんとの対談をお届けします。LOST AND FOUNDラバーは必読!オープン秘話からこれからやりたいことまで、盛りだくさんの長編です。

“皮肉まじり”のコンセプト!?

小林さん:実はこうやって対談するのは初めてなんですよね。直輝さん、2周年おめでとうございます!

NIKKO三谷:ありがとうございます!
LOST AND FOUNDというブランドがどう始まったのかという話からすると…
100年続くNIKKOという洋食器メーカーのモノはいいと、僕を含めて社員は自負していました。でもそれがなかなか世の中に伝わっていない、伝わりづらいと感じており、どう広めていけばいいのか、と考えたことからスタートしました。
そこでトランジットジェネラルオフィスに、「もっと人が来たくなるようなショールームにしたい」と相談しました。最終的にはショールームではなく、ジェネラルストアを作ることになったわけですが、NIKKOの“モノはいいけど埋もれてしまっている、知られていない”という部分に注目し、コンセプトを考えました。そういうものって世の中にはもっとたくさんあるはずだという話になり、「忘れ物保管所」というコンセプトが浮かび上がってきたんです。だからある意味自分たちを皮肉まじりに表現した、逆手に取ったコンセプトなんですよね。

アイテム選びは、二重のずらし

NIKKO三谷:実際にジェネラルストアを作ることになり、まずセレクターの方をセレクトするということになりました。何人かいた候補の中でも、小林さんの物に対する知見や想いがどうやらすごそうだと。そこで東京本社に来ていただいたんですよね。NIKKOのことをご存知だったこと、そして我々がやりたいことをかなり汲み取っていただいたことがとても嬉しかったです。

小林さん:最初に話をいただいたとき、社名は伏せられ、日本の歴史ある洋食器メーカーだと聞かされていたのですが、NIKKOであることをお聞きして嬉しかったです。実はNIKKOの製品というのは日々触れていたんですよ。「Roundabout」で取扱いのある柳宗理ボーンチャイナシリーズや、2000年代初頭にマーク・ニューソンがデザインしたIDEEのmudシリーズのTea MasterもNIKKO製だという認識もあったので、品質的には間違いない中で、名だたるデザイナーたちの厳しい要望にも答えてきたという実績も伺い知っていました。日本のデザイン史の中で重要な位置を占めている企業のうちの一つであるという印象でした。そういう長い歴史を持ったメーカーと一緒に仕事ができるというのは嬉しいことでしたね。

NIKKO三谷:品質的な部分を評価いただくことはあっても、実はデザイン面でのフィードバックはなかなかいただけないんですよね。小林さんに評価いただき、その後大量のリストを見た時、正直よく分からなかったのですが、話を聞くと「めっちゃすごそう!」ってワクワクしてきました。長く使える日用品ですから、見た目は奇抜なものではないんですけどね。

小林さん:まさに。パッと見た印象は派手ではないけど、背景を紐解いていくことでじんわり伝わる様な、それこそNIKKOの製品と通じる価値があるものを探しました。
でもね、これがやっぱり大変でしたね。いいものは大体知られている中で、少し視点をずらしたときに光を持っているか、なおかつ私がやっている店とも丸かぶりしないよう、自分の中の制約もあったので。王道とずらし、自分の普段のセレクトともずらすという“二重のずらし”を課してセレクトするのはなかなか大変でした。でもその視点で世の中を見回すと、これまでと違った景色があって新鮮でしたね。

NIKKO三谷:オープンまですごくバタバタと大変なスケジュールでしたよね(笑)。

小林さん:確か2020年末に打診いただき、実際に動き出したのは2021年に入ってからでしたよね。6月にはECサイトが、11月には実店舗がオープンというスケジュールで奔走して(笑)。2021年は自分にとって“NIKKO YEAR”でした。

NIKKO三谷:ジェネラルストアなので、物がたくさんあるというのが重要ですし、細かい話、購買ルートは大変でしたね。バックヤードはかなり小林さん頼りでした。最初のメンバーは小林さんに何度も怒られたし!

小林さん:オープンまでは何回もブチ切れましたね(笑)。でもモットーとしては溜めずにその場ですぐに言うことです!

別の場所に導いてくれる、モノの力

小林さん:実際に全ての物がお店に並んだときは嬉しかったですね。

NIKKO三谷:感動しましたね。最初に小林さんが商品を説明してくださったのですが、今まで買ったことがないようなニッチなアイテムばかりなんですよ。木製のレモンスクイザー(ALESSI)を見て、「これでレモンを絞ってレモンサワーを飲みたいな」と思い、こんな考えは今までにない経験でした。レモンサワーを飲みたいからレモンスクイザーを買うのではなく、レモンスクイザーが欲しいからレモンサワーを飲むという、モノが導いてくれることがあるんだということに驚きました。

小林さん:モノが別の場所にいざなってくれる、これが良いモノの持つ力だと思っています。使い勝手のよさ、耐久性のよさというのは、根底としてクリアしておかなければいけないところですが、プラスして、モノを起点にいろんな情景が浮かんだり、気持ちが動くというのも、また別の、モノの働きなのかなと。

NIKKO三谷:100種類以上ものブラシは顕著ですよね。こんな用途のブラシがあるんだといつも驚きます。「ここを掃除したいからブラシを買う」ではなく、「このブラシを買ったからにはここを掃除したい!」と思わせてくれます。

小林さん:その感想は嬉しいですね。

NIKKO三谷:実際に多くの方から良いセレクトだと言って頂き、僕も嬉しいです。他のセレクトショップとは違う店にしていただいたと思っています。お客様がさらに別の角度から見てくれたりもして、またモノが光を浴び、モノの価値がどんどん上がっていける店だと思います。

小林さん:使い手が新たな見立てをしてくれて、そこでモノの価値をさらに高めてくれる、余白のようなものも、いいモノの側面なのかなと思いますね。
セレクトするときの意識としては、果物を手摘みしているようなイメージなんです。機械にかけて果物をゆさゆさゆさ〜と落とすのではなくて、一つずつ選びながら自分の手で摘んでいく意識で選んでいます。

予想していなかった出会いが転がっている場

NIKKO三谷:お客様の滞在時間は長いですし、目的を持って来ても、別のものを買って帰る方が結構多いんですよね。

小林さん:嬉しいですね。目的外のものに興味を持ったり買ったりしていただけるというのは、それこそが実店舗の役割なので。
ECは遠くの方に届けるという大きな意義があり、目的に最短距離で到達するのが可能な分、寄り道ができない。アルゴリズムでこれを買ったらこれを…みたいなことはありますが、グラスに手を伸ばした時に、隣のスポンジもいいなと思ったりして、お客様自身が予想していなかった出会いが転がっている場が実店舗なんですよね。

NIKKO三谷:実店舗のおかげで、NIKKOの中でショールームに足を運んでもらいたいという当初のミッションも達成していると考えています。稼働率も10倍20倍…とあがっていて、もちろん質も違いますし。「NIKKOのものを買いにきてあげましたよ」ではなく、「NIKKOと一緒に何かやってみたい!」という来客も増えました。それは実店舗の凄さだと感じています。
おもしろいのは、NIKKOの社員自身が「こんなにいい物あったっけ」と、NIKKOの器を見て口にしていたことです。

小林さん:まさに内なるLOST AND FOUNDですね。

NIKKO三谷:そうなんですよね。やはりディスプレイというか、空間によって全然違うんだと思いました。

小林さん:立体的な奥行きのある空間の中で見ると、まわり込む光や周囲の環境、反射する光で見え方が全然違うものです。

NIKKO三谷:店舗の遊歩道側のガラス前に並べられたREMASTERED(リマスタード)シリーズはその最たるものかなと思います。すごく綺麗に見え、LOST AND FOUND(以下LAF)でも一番人気の商品になっています。

小林さん:やっぱり白を引き立てる自然光の力って偉大だなっていうのはありますね。
そういう意味でいうと、緑道沿いのロケーションは最高ですよね。ご近所の方の日々のお散歩ルートですし、遠方からもお越しいただきやすい絶妙な場所だと思います。

NIKKO三谷:奇跡のロケーションですよね!

3年目、これからのこと

小林さん:いよいよ3年目の歩みがスタートですね。

NIKKO三谷:これからやりたいことがありすぎて追いついていないのですが…もともとLAFって、忘れられてしまっているものを掘り起こすという、つまり形としてすでに世の中にあるものを小林さんの審美眼でセレクトしていただいているのですが、まだ形になっていないものもあると思っているんです。世の中にある素晴らしい技術や素材などを、LAFというフィルターをとおして、世の中にお披露目していく活動をやりたいと考えています。それはそれでハードルは高く難しいけど、絶対にできると思っています。全国のいいものづくりをしている場に小林さんと一緒に行って、LAFらしいものに変換していくようなことにチャレンジしたいですね。

小林さん:いいですね。ここ何年か、NIKKOのある石川県のお隣、富山県・高岡で20数年間開催されているクラフトコンペがあり、審査員をやらせてもらっています。今年も高岡に訪れる機会があったのですが、それこそ様々な眠っている技術があり、その価値が伝わりきっていないような気がしました。もちろんそこに長けたメーカーもあるのですが、お隣の県同士ですし、北陸繋がりで何かできたらいいのではと思いました。

NIKKO三谷:おもしろそうですね。

小林さんのやりたいこと①

小林さん:今回直輝さんと対談するにあたり、NIKKOの歴史を復習したのですが、焼き物の歴史は面白いですよね。歴史って今からは作れないし、お金があっても買えるものではない。だからこそNIKKOに興味を持ってくれた一般の方がその歴史にアクセスしやすい環境があると良いと思いました。バーチャル工場ツアーなんかもあって是非見ていただきたいです。(https://360camera.space/NIKKO2/

今度お店のセンターテーブルでNIKKO展をやるのもいいですね!

バーチャル工場の全体図

NIKKO三谷:なるほど。

小林さん:僕はショップというのは世間との接地面だと思っていて。これまでNIKKOと社会との接地面は、どちらかというとホテル・レストランという、プロの現場がメインだったと思うんです。もちろんお客様はそこで製品と接することはできるけど、NIKKOという企業そのものと触れる機会がなかった。NIKKOのキャラクターみたいなものを顕在化したのがLAFとショールームだと思うので、コップを買いにふらっと立ち寄ったお客様にNIKKOの歴史を知っていただけるきっかけになったら良いなと。

NIKKO三谷:もともと自分たちを出しすぎても…と思っていましたが、2周年を迎え、これからはNIKKOの根元部分を少しずつ見せていっても良いかもしれないですね。

小林さんのやりたいこと②

小林さん:NIKKOは陶磁器事業だけではなく、そこから派生した他の事業も展開されてますよね。その中でも暮らしに近い領域として、バスルーム事業「BAINCOUTURE(バンクチュール)」があると思いますが、そういった要素とLAFの取り組みと、たまに行き来があっても良いかなと思います。
バンクチュールの「時を仕立てる」というコンセプトがいいですよね。なぜそれが響くのかというと、今、時短文化がじわじわと世の中を席巻しているじゃないですか。映画を2倍速で見たり、「タイパ(=タイムパフォーマンス)」という言葉があったりして。もちろんある場面では効率化という考え方が重要なこともあると思います。ですが、豊かな時間までも圧縮しようとする風潮は、ちょっと行き過ぎではないかと思っています。そう考えると、お風呂でゆっくりするという、つまり「時を仕立てる」という、どこにも属さない、いわば生産性と切り離された時間を味わうというのは、今の時代に対してのメッセージになると思うんです。

NIKKO三谷:ありがとうございます。LAFの空間ができたことで、バスルーム事業にもいい影響がありました。バンクチュールのお客様でもLAFのショールームにお連れするんです。NIKKOってこういう側面もあるんだと思っていただけると、単なるものを買って売るという関係性ではなく、「こんな素材があるのだけど何か一緒にできないか」、などと他の事業部のお客様と繋がるケースが出てきています。企業としては嬉しいシナジーが生まれ始めています。

小林さん:陶磁器事業から始まって、新たな事業が生まれ、その新たな事業で出会ったお客様がまた陶磁器事業に還流するというのは素晴らしいですね。

NIKKO三谷:独立した事業が少しずつ繋がっている。NIKKOだからこその意味を追求していきたいですね。会社として良い循環ができてきている印象ではあります。

小林さんのやりたいこと③

小林さん:NIKKOとして製品の素材をファインボーンチャイナに統一する動きもあると思いますが、個人的には以前生産されていた強化磁器や硬質陶器も好きなんですよね。完璧さだけが全てではないという機運が高まっている中で、長い時間をかけて育てていく器みたいなコンセプトで硬質陶器を使えたらと思いました。

NIKKO三谷:僕も硬質陶器は雰囲気があって良いと思いますが、実はひとつの工場で他の素材を流すことは難しく、正直コスト面の問題もあります。それでも今回の新しいREMASTERED(リマスタード)ではパーセプション(強化磁器)のものが出ます。少しでも無駄のないよう、素焼きの状態(釉薬をかけていないもの)のNGをクラッシュして培土にしていこうと考えています。観葉植物は水分を吸う土で良いので、普通の土のように虫などが入っていないメリットを感じてもらえる培土に。もしかしたら硬質陶器も違う可能性があるかもしれませんね。

小林さん:高級レストランでは白さが映えるけど、庶民的な店ではパーセプションのクリームっぽい感じが馴染みますよね。

NIKKO三谷:大手のファミリーレストランや牛丼チェーンで使われていたり、日本人なら絶対に一度は使っていると思います。

小林さん:新橋のカレー屋さんでも使われているのを見つけて、先日御社の担当の方にタレコミ情報を流しました(笑)。

NIKKO三谷:嬉しいですよね。LAFやNIKKOを好いてくれている人が、いろんなところでNIKKOがあったという連絡をくれると。お皿のリテラシーが上がります。これからさらに日本が観光立国になるとすると、食のリテラシーが上がります。我々としてもそのイチメンバーになれたらと…ちょっと話が大きいですが(笑)。

小林さん:そう考えると、NIKKOのお皿を使っているお店MAPがあっても楽しそうですね!

NIKKO三谷:今は高価格帯のものも多いですが、元々は業務用なので、町中華で赤と緑の線が入ったお皿とか、釉薬もちょっと剥がれたりしているものも見つかるはずです。

小林さん:読者の方にも街や家でLAF視点のNIKKO探しをしてくれたら嬉しいですね!

「LOST AND FOUND=忘れ物保管所」

ひとつのコンセプトで話はどんどん広がりましたが、いかがでしたでしょうか。お二人のやりたいことが、どう実現に向かっていくのかにもご注目くださいね。

LAFは3年目も歩みを止めることなく、皆さまに楽しんでいただける、意義ある発信をしていきますので、これからもどうぞよろしくお願いいたします!

interview & text by Sahoko Seki
photo by Naoki Yamashita

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