ひとつの物について深く探っていくことで、物選びがグッと楽しくなる。
この連載では、LOST AND FOUNDセレクター・小林和人さんが、このお店で選んだアイテムの中から毎回ひとつをピックアップし、とことん話します。
今回小林さんが話してくれたのは、贈りたくなる石鹸についてです。
石鹸を贈ることは、楽しむ“時間”を贈ること
小林さん:先日おもしろい写真集に出合ったんです。韓国の具本昌(Koo Bohnchang)の『くらしの宝石』という、使い古した石鹸の写真集。石鹸は、使っていくうちに具体的な存在から抽象的な存在に移行していくその在り方が非常にいいものだということを再確認しました。消えていくものは、儚げな良さがありますよね。
そんな石鹸を贈るというのは、楽しむ“時間”を贈るということだと思っています。
脳内でロンドンの旅ができるクラシックな石鹸
小林さん:そこで今回は対照的な2つのブランドの石鹸をご紹介します。
ロンドン最古の薬局から発祥した老舗ブランド「DR. HARRIS(ディ・アール・ハリス)」は、創業時から受け継がれたレシピとともに、製品本体からパッケージにいたるまで可能な限りイギリス産を使用する姿勢を守り続けています。
こちらの石鹸は、形成後の素地を3回砕いて固めるというトリプルミルド製法で、水分量が少なくきめの細かい、高品質な泡が続くのがポイントです。
エリザベス女王即位60周年を記念して作られたという「WINSOR」をはじめ、イギリスの村「ARLINGTON」や、サヴィル・ロウ14番地にある英国紳士服ブランド「HACKETT LONDON」のオープンを記念して作られた「NO.14」と、ロンドンの歴史に紐づかれたシリーズで、その土地に想いを馳せながら、脳内で旅をすることができるのもいいですよね。
最適なスキンケアを叶えるグラフィカルな石鹸
小林さん:続いてひげづらの男性の横顔が刻印された「LE BAIGNEUR(ル・ベヌール)」。加藤登紀子の「時には昔の話を」の歌詞に「ひげづらの男は君だね」という一節があるのはさておき…(笑)、こちらはクラシックな雰囲気ながら2012年にパリで誕生した新しいブランドです。
コールドプロセス製法(加熱せずゆっくりと自然に熟成させる製法)で作られており、保湿作用のある天然のグリセリンが失われずに残るので、しっとりとした潤いをもたらしてくれます。肌質に合ったタイプを選べるのも嬉しいですが、贈り物ならビール(保湿)、カカオ(再生)、シア(栄養)の3つの石鹸が入ったセットがおすすめです。
イメージ的には、DR. HARRISは恩師に贈る石鹸、LE BAIGNEURは手紙を添えて友人へのちょっとしたプレゼントでしょうか。
エモーショナルな余白を持った存在
小林さん:石鹸を贈るとき、香りは重要な要素だと思っていますが、あまり主張し過ぎてしまうと、どこか作りものっぽさが感じられてしまい、ちょっと冷めてしまいます。
洗い終えた後の残り香を、ほんのり楽しめるくらいがいいですね。
石鹸は汚れを落とすという機能が軸にありつつ、その香りが気分を切り替えたり、ある情景を思い出させるようなエモーショナルな余白を持った存在ともいえます。
そんな余白の部分で少しだけ贅沢をするというのも、ひとつの豊かさの形ではないでしょうか。
香りからふと「あの人にもらった石鹸だな」なんて記憶を蘇らせることも、小林さんが言う石鹸のエモーショナルな余白なのかもしれません。
華やかなシーズンに、是非香りから石鹸を選んでみてはどうでしょう。
<記事内紹介商品>
小林 和人 @kazutokobayashi
1975年東京都生まれ。1999年多摩美術大学卒業後、国内外の生 活用品を扱う「Roundabout」を吉祥寺にオープン(2016年に代々木上原に移転)。2008年には非日常にやや針の振れた温度の品々を展開する「OUTBOUND」を始動。両店舗のすべての商品のセレクトや店内ディスプレイ、展覧会の企画を手がける。
「LOST AND FOUND」ではセレクターを務める。
interview & text by Sahoko Seki
photo by Naoki Yamashita
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