時代を明るくリードしてくれる、様々な分野にまつわるプロフェッショナルたち。そんなプロたちが選んだLOST AND FOUNDのアイテムと共にお送りする「行方ひさこのLOST ANDFOUNDなスタイル」。仕事、プライベート共にたくさんのものを見て、真摯に向き合ってきた彼らだからこその、なにかを選択する時の視点やこだわり、ものと向き合う姿勢などを掘り下げていきます。
相澤陽介
今回は、White Mountaineeringのデザイナーだけでなく、様々なジャンルで活躍されている相澤陽介さんのをゲストにお迎えしました。軽井沢駅からそう離れていないのに、森へと続く道に入ると、一瞬で穏やかな時間に包まれました。木漏れ日の緑色の光が差し込む道をさらに進むと、語りかけてくるかのような鳥の声が響き、瑞々しい空気に。そんな場所にある相澤さんのアトリエにお邪魔して、お話を伺ってきました。LOST AND FOUNDからおすすめのアイテムを数点選んでいただき、それぞれの気に入ったポイントなどもお話しいただきます。
山のアトリエでの静謐な時間
行方:素敵なアトリエ!緑に囲まれた素晴らしいシチュエーションですね。どうして中軽井沢を選ばれたのですか?
相澤さん:子供の頃から高校時代までジュニアチームでアイスホッケーをしていて、軽井沢スケートリンクでもよく練習をしていたので馴染みもありましたし、都内からちょうど良い距離感だなと思っていました。
いくつか候補地があったのですが、長いことWhite Mountaineeringというブランドをしているし、アトリエはやっぱり山にないと!ということでここに決めました。アトリエの反対側が浅間山の国有林なので、これ以上開発されないというのも良い感じだなと。
行方:うん、山にあってほしい(笑)。開発がこれ以上進まないのはとても良い、最高の環境ですね。ご家族がいらっしゃる時はどんな過ごし方をされるのですか?
相澤さん:僕は家には仕事を持ち込まないタイプなので、週末に家族が来たら仕事はしないですね。子供たちがテニスをしているのですが、この辺りはテニスコートも多いですし、よくゲームもします。夕方になると焚き火をしたり。
最近は料理が趣味。ここにいる時は全て僕が作るので、キッチンの高さは僕に合わせて作りました。
ここは築40年以上経っているボロボロの物件だったので、柱をいくつか残してフルリノベーションしました。仲の良い友人のインテリアデザイナーの事務所に通い、色々相談をしながら1年半かけて造りました。
今、6月のコレクションに向けての準備をしているのですが、ここにいると誰にも邪魔されないから3倍くらいのスピードで仕事がこなせるんですよ。週末はできるだけ家族と過ごしますが、ここには平日に1人で来ることが多いです。代官山にいてもここにいてもやることは変わらない。だったら環境がいい方が、落ち着いてゆっくり考える時間も取れるのでいいですよね。
自ら手を動かすことにこだわる
行方:かなり広い分野で活躍をされていますが、相澤さんはファッションの分野に関わらず、「デザイン」をされているという印象を受けます。
相澤さん:そうなんですよ。クリエイティブデザイナーやアドバイザーとして仕事が広がっていく人も多いと思いますが、僕は自分でデザインをする、自分の手を動かすということにこだわっています。大学で染色と織物を学んだのですが、自分の手を使ってものを作る職人に近いことをやりたかったんですよね。
北海道コンサドーレ札幌では取締役に就任しましたが、ユニフォームをはじめ、デザインは自分でしています。デザイナーって言葉の解釈が難しいんですよね。北海道コンサドーレ札幌のデザイナーっていう肩書きだったら変じゃないですか(笑)。なので、統括するという意味でクリエイティブディレクターっていう肩書きになってます。
行方: NOT A HOTELではどのくらいデザインをされていますか?
相澤さん:建築士ではないので製図は描けないので、草案からコンセプトを考え、ラフスケッチまでして、そこからは建築士と一緒に動いて作っています。もちろん、素材などは全て選びます。
今日、ちょうどCGが出来上がってきたので見ます?
行方:是非是非。え!これCGなんですね。
相澤さん:そうなんです。本当に岩の上に建てるんですよ。大昔に浅間山噴火の際、溶岩が全て群馬県側に流れ、鬼押出し園という溶岩だらけの国立公園の真下くらいに造るのですが、周りに大きな岩がたくさんあるんです。そんな岩の上に造りたいなぁなんて素人考えだったのですが、耐震や地盤とか調べていったら「実現できそうだ。」ということで進めています。
行方:わぁ、何メートルもの岩の上に家を建てるなんて、すごいことを考えましたね!
相澤さん:いろいろな大きさやシチュエーションで5棟建ちます。岩の上や小川の上とか、地形に合わせて。基本コンセプトは同じですが、サイズは全て違います。都市で生活をしている人がリラックスできる場所が北軽井沢で作れたらおもしろいなと思って。アイディアの原型はこのアトリエなんです。
行方:そうか、少し似ていますよね。
相澤さん:似てるというか引用している感じですね。ここはたまたま古いものをリノベしたので100%じゃないけれど、NOT A HOTELは、生活環境のいい山の中に5棟立てたら面白いかなって。
行方:いつ完成予定ですか?
相澤さん:来年の春、プレオープンです。
行方:どんな経緯でデザインすることになったのですか?
相澤さん:NOT A HOTELは様々な著名な建築家、インテリアデザイナーが手掛けていますが、軽井沢に関しては建築物の前にライフスタイルを重要視したいという思いがあったそうです。
軽井沢は素晴らしい四季があり過ごし方も季節によって変わってきます。実際に僕は東京と軽井沢を行き来しながら生活していますので季節によっての楽しみ方を体現しています。
そんな中で代表の方が僕のアトリエに遊びにきて話をするうちにお互いアイデアが浮かんできたというのが始まりです。
行方:いいですね、遊びから始まったプロジェクトなんですね。
相澤さん:はい。普段の生活で気がついた事や物を反映させようと思っていて、実際に使っているアイテムをアップデートさせたり、ここにまつわる従業員の制服やエプロン、部屋に置くものもできるだけデザインしたりセレクトしたりしたいと思っています。
つまりは機能とデザインを両立させるという僕の基本コンセプトを体現するように作っています。
これは、フリッツハンセンのヤコブセンのWhite Mountaineeringバージョンで僕のアトリエで使っています。普遍的なデザインでありながら軽くて座り心地が良い優れた椅子です。今回、以前のご縁によりNOT A HOTEL用にもまた作らせてもらっています。コストを抑えることより、他にない環境を作って少し値段が上がっても、おもしろい人が集まってくれることにプライオリティを置いている感じだと思います。
好きなことを突き詰める
相澤さん:今まで色々なジャンルの仕事をさせてもらってきて、僕の経験値も上がっていく中でまた次のジャンルに広がっていくというのがとても面白い。遊びがスタートでもビジネスとして真剣に取り組んでいくと信用が生まれてきて様々な人と繋がっていくんだなと。
行方:周りに色々なジャンルの方がいると勉強になりますよね。お話しを伺っていると、相澤さんは好きが高じてお仕事になっている感じですね。
相澤さん:そうですね。初めはビジネスという感覚ではなく好きな事だからやってみたいという流れが多い気がします。コンサドーレも最初はポスターなどのクリエイティブのご相談をいただいて、そこから段々と関わりが深くなり、ユニフォームのデザインをさせてもらって3シーズン目ですね。
僕はファッションデザイナーという言葉に囚われたくないと思っていて、一番重要なのはデザインする事でその中で一番得意で長年やってきたのがファッションなんです。それでは2番目、3番目に興味があるデザインとは何なのか?という模索とタイミングが合わさる時があるんです。そうなると良い環境ができると思っています。
行方:White Mountaineeringスタート時は、個人の仕事はしていましたか?
相澤さん:ほとんどしていません。コムデギャルソンを辞めて、ファッション業界から日雇いの仕事をしたことがあります。入社2年目でひょんなことからJUNYAWATANABEの直アシスタントになり、同時にメンズブランドの立ち上げにも関わってきました。とてもありがたい環境だったと思いますが、まだ若かったこともあり仕事に対してキャパオーバーになってしまったんです。
転職したくて辞めたわけではないので、取りあえず身体を動かす工事現場で働いて家賃だけ払おうかなと。ずっとアイスホッケーをしていたのでスポーツ脳なのかもしれません(笑)。
ファッションの定義って非常に広域でありながら非常に個人的な嗜好につながるので難しいんですよね。性別、世代、体験、と皆全て異なる中で様々なカテゴリーがあり共通項があまりない。
例えば僕は大学で教えていますが、プロダクトデザインも建築もグラフィックもある程度様々な意図が使う前提で製作されていると思いますが、ファッションに関してのフォーカスはかなり狭い範囲で行われていてそれぞれ小さなパイの中でビジネスが成り立っていると思っています。
しかし2年前にユニクロとコラボレーションした際にユニクロの世界観が広域に対して行われていて、テーマが「ファミリー」だったこともあり、そのカテゴリーが無くなったように感じたんです。つまりファッションも1つのインフラになれる可能性があるんだと。White Mountaineeringだけやっていると感じられなかったこと、分からなかったことがたくさんありました。
デザイン、実用性、技術
行方:お部屋にたくさんのドライフラワーが吊るされているのが目につきました。お花もお好きなんですね。
相澤さん:はい。ここにくる途中で花を買ってくるのですが、少し朽ちてきたらドライになっても楽しめるように根本を麻ひもで縛って吊るして飾っています。
行方:今回セレクトしていただいた麻ひものブランドNUTSCENEは、1922年にスコットランドで創業して、イギリスでは麻ひもと言えば!というブランド。リサイクル可能な原料のみで作られた環境にやさしいジュート麻ひもです。
相澤さんがこのひもを何に使うのか興味があったのですが、お花を縛るとは!自然のままの風合いを生して作られているので、用途にピッタリですね。
相澤さん:スタンドにカッターが付いているところが気に入りました。紐を引いても型崩れしにくい形に巻かれているところもいいですね。
行方:そして、もう1つ。新潟県三条市の金属製品メーカーBELMONTのファイヤースクエアケトルは、LOST AND FOUNDでもとても人気のアイテムです。IHにも対応しているし、中に茶漉しも付いているので、かなり実用的だと思います!
相澤さん:大きい2.8Lサイズを選びました。シンプルな機能美がいい。注ぎ口に蓋がついているからか、ドバッと中が出ないような仕組みになっているところも良いですね。
「デザイン、実用性、技術の3つの要素をひとつの形にし、市場に屈しないものづくりをする」というホワイトマウンテニアリングのコンセプトは、相澤さんのプロダクトに対する強いこだわりと哲学。美しさと実用性を兼ね備えた長く愛用できる納得できるものを選ぶ、というLOST AND FOUNDのコンセプトにとても近いですよね。
自分の手を動かすことで「ゼロ」から発想して「1」をつくることを大切にし、ご自身と丁寧に対峙をしながら、感じたものをコツコツと積み上げていく。枠にとらわれずに、常にチャレンジし続けている相澤さんの、好きを楽しく突き詰めていくものづくりが今後も楽しみです。
<記事内紹介商品>
行方ひさこ@hisakonamekata
ブランディング ディレクター
アパレル会社の経営、ファッションやライフスタイルブランドのディレクションなどで活動。近年は食と工芸、地域活性化などエシカルとローカルをテーマに、その土地の風土や文化に色濃く影響を受けた「モノやコト」の背景やストーリーを読み解き、昔からの循環を大切に繋げていきたいという想いから、自分の五感で編集すべく日本各地の現場を訪れることをライフワークとしている。2021年より、地域の文化と観光が共生することを目的とした文化庁文化観光推進事業支援にコーチとして携わる。
Interview & text Hisako Namekata
Photo by Naoki Yamashita
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