May 11.2023

行方ひさこのLOST AND FOUNDなスタイル - ライフスタイリスト大田由香梨編

時代を明るくリードしてくれる、様々な分野にまつわるプロフェッショナルたち。そんなプロたちが選んだLOST AND FOUNDのアイテムと共にお送りする「行方ひさこのLOST ANDFOUNDなスタイル」。仕事、プライベート共にたくさんのものを見て、真摯に向き合ってきた彼らだからこその、なにかを選択する時の視点やこだわり、ものと向き合う姿勢などを掘り下げていきます。

大田由香梨 ライフスタイリスト

スタイリストとしてファッション業界で活動をスタートさせた後、住空間、FOODディレクションなど、衣食住<ライフスタイル>をスタイリングする”ライフスタイリスト”として活動。自身のブランドのディレクションの他、企業・ブランドのコンサルティングなど、クリエイティブ活動を通じて豊かでサステナブルな暮らしを多角的に提案している。

 今回は、ファッションスタイリストとして業界の中心で活躍され、そこから入居していたビルの取り壊しにより惜しまれながら閉店したカフェレストラン「ORGANIC TABLE LAPAZ」をはじめ、インテリア、香り、食品の開発など、生活にまつわる様々なもののデザインやディレクションをされているライフスタイリストの大田由香梨さんにお話しをお伺いします。

柔らかい心で軽やかに選ぶ

行方:随分前のことになりますが、ファッションスタイリストとしてご活躍されていてとてもお忙しい中、オーガニックカフェを立ち上げられたことがすごく衝撃的でした。当時はファッションに携わっている人の中に、食事や環境のことに興味を持っている人は極端に少なかったように感じていたから、余計にインパクトがありました。

由香梨さん:自分で全てする人ってなかなかいなかったかもしれないですね。

行方:ですよね!どんな経緯で決断に至ったのですか?

由香梨さん:20代の時はファッション誌などの仕事が多く、すごいスピードの中で我を失くすように仕事に夢中になっていました。それはそれでとても楽しかったけれど、30代に近づくにつれての感情の変化だったりとか、少しずつ自分の中に矛盾が生まれてきてしまったんです。このままだと大好きなファッションが嫌いになってしまうかもしれないと思い、もう一度自分に立ち帰れるように見直すタイミングなのかもしれないと。

震災も重なり、自分自身の人生と向き合える、表現できる場所が欲しいなと思うようになりました。空間のコーディネートも大好きだったので、雑貨やインテリアのお店をやりたいという構想からスタートしました。キッチンのある居抜き物件だったので、コーヒーとか出せたらいいね!というところから全てが始まりました。

行方:最初はそうだったんですね。インテリアにもこだわりを感じて、とてもリラックスできる素敵な場所でした。

由香梨さん:せっかく食事を出すのであれば、海外に行った時に感じていたことを表現したいなと。その当時、ロスやNYではヴィーガンやローフードを選択できるお店が多かったのですが日本にはほとんどなかったので、まずマクロビオティックの食が楽しめるお店を作りたいと。

行方:最初から食事を出す事業計画をみっちり立ててから立ち上げたというわけではなく、臨機応変に変えていったのですね。

由香梨さん:人の口に入るもの、食べるもの、身体を作るものを提供するとなると、責任重大ですし、どんどんこだわりが強くなりすぎて全然儲からないなと(笑)。

行方:すごく良くわかります(笑)。

由香梨さん:食と向き合うと、すごくシンプルに環境のことだったり地球のことだったり……全てのことがおのずと繋がってくる、野菜は大地のイメージがつきやすいと思うのですが、家具もファッションも全てはこの大地から生まれてくるものしかないから。そんな気付きをもっと丁寧に伝えていけるようにしたいなと思うようになりましたね。

自分で農家や調味料を探したり、いろいろやってきた10年間でしたね。自分自身のメディアというか、自分の想いや思考を伝える場所になっていたから、売上というよりはきちんと作っている農家さんの一番の消費者でありたい、たくさんの人にそれを知ってもらいたいと、最後の5年くらいはメディアとしての役割だと思って走り続けていました。

行方:嫌いになりそうだったファッションとも、バランスを取ることでずっと続けら
れているんですね。

由香梨さん:雑誌の世界よりもっと時間軸が長い、ブランドを成長させる、作っていくという方向に切り替わっていきました。新しいものだけを追い求める仕事より、そういう方が自分の性に合っていたんですね。

行方:いつからライフスタイリストと名乗られるようになりましたか?

由香梨さん:それは、説明ができなくなったので無理くりつけた感じだったんだけど(笑)。ファッションの仕事をする時はファッションスタイリストだし、食の仕事をする時はフードスタイリストと言われることもあるし、インテリアの仕事をすることもあるんだけど、「お仕事は何をしているんですか?」と聞かれた時に、全てを答えることが面倒になったので、衣食住のスタイリストをやっていますと答えるようになったのがきっかけかな。

行方:ライフスタイリストって生き方のコツや指針を提案していく素敵なネーミングですね。

全ての想いを吸い上げてもらい、自分たちで造るshirako no ie

行方:今、由香梨さんが手掛けられているshirako no ie (シラコイエ)のこともとても気になってます。

由香梨さん:みなさんに「いつ、オープンなんですか?」とよく聞かれるのですが、実は目的があってやってきたわけではなくて、たまたま出会って引き継いでしまって、2年かけて修繕し続けて、やっと今カタチになりつつあるという感じ。まだベッドルームもないので、自分たちも家の横にモーターハウスを置いて、そこで寝泊まりをしながら修繕している感じなんです。

ちょうど2020年のタイミングでLAPAZを閉めなくてはいけなくなって、次の場所を探していたんだけど、空気や波動が良いところが見つからなくて。続けるつもりだったけれど良い物件の出会いがないということは、そういうタイミングかもしれないなと、少しのんびりしていた時に出会ってしまいました。

行方:人に頼まずに、自分たちで直そう!って思ったんですね。

由香梨さん:そもそもそこまでお金も掛けられないし、自分のスタイルとして、プロに入ってもらうにしても、ここに携わる自分たちの手できちんと手を掛けていく方が、家自体がイキイキとする感覚があるんです。

行方:大変ですけれど、それはそうですね。

由香梨さん:そうそう。大工の友達に頼ったりはするけど。プロの人たちは手際が良くて早いけど、私たちはこだわりがあるから、自分たちでできるとこまでやる方が早かったりする気がして。

古民家も自分たちの手でとは最初から思っていたけれど、自分も200年前の家を修繕するのははじめてのことで未知数でした。偉大なものだったし、向き合えば向き合うほど、自分たちは通過点でしかなく、自分たちが死んだ後も継いでいってもらいたいものだと思うと、中途半端なことはできないなと思って。

ご縁が繋がって、隈研吾さんにお願いしたら、修繕プランとか躯体の設計とか大きなところは引き受けて下さったんです。隈研吾事務所のスタッフの方々と一緒に修繕してくれて。受付の方が和紙を貼ってくれたりとか(笑)。解体した木材をチップにしてそれで壁を作ったり、竹藪の竹を炭にして和紙を作ったりとか、いろんな部分でアイディアをいただきました。

行方:出来上がったらそこで暮らす予定ですか?

由香梨さん:家としては考えていなくて、200年前は大家族だったから、多くの人と支えあって暮らしがあったと思うので、ちゃんと暮らしを理解した上で、その暮らしを体験してもらう場所にできたらなと。ゆっくりね(笑)庭を維持するのだけでも大変だと思うし、掃除にどのくらい時間がかかるのかも……。

行方:そういう体験プランがあったら楽しそう!全くやり方はわからないけれど、庭を作る体験とかしてみたいですね。

由香梨さん:意外と植木職人さんたちって幸せな仕事だなと。梅のジュースを作りたいから梅を植えるとか、柚子を使いたいから植えておこうかなんて話をしながら庭を作っていくのが本当に楽しくて。今すぐできるものではなく、10年後とかをイメージしながら木を植えていくので、切間なくお花がちゃんと咲いてくれるのも、本当に素敵!200年前の人たちと会話をしながら、楽しむ暮らしは本当に幸せなことだなと。

少数精鋭、あとは他の人に譲れるものしか買わない

行方:ものを選ぶときはどんなことを大切にしていますか?

由香梨さん:長く使えるものというのは、常に考えています。自分の心境の変化が訪れても、ライフステージの変化があっても長く愛していけるものに魅力を感じています。洋服はどうしても劣化するし、体型の変化によっても似合わなくなったりするけれど、ものは使えば使うほど手に馴染んでくるものが多いし、家具も自分と一体になってくるような感覚もあるし。

ヴィンテージの家具は、私より長く生きてると思うとさらに愛おしく感じるし、もし自分が使わなくなっても別の人に愛されるようなものを考えて買うようにしている、厳選しています。

行方:少ないけれど、1つ1つの存在感があるので物足りなさは全く感じないですね。

由香梨さん:全部重いものばっかり。質量が安定しているものが好きみたいです。

行方:たくさんの物の中から、好きなものをなぜ好きかを常に考えているから、好きなものがブレないのかもしれないですね。

由香梨さん:たくさんのものを見ているからこそというのはあるかもしれないですね。他に表現の場所もあるから、自分のスペースは情報を家の中に持ち込まないようにしていて、本も核になるようなものしか置いていません。右左に揺れるものではなく、ゼロに戻るようなもので家は作っているかもしれません。

戦力の強いチームづくり

行方:有田の辻精磁社で、オリジナルの器も作られましたよね!厳選し尽くされた形と型数という感じがしましたが、どんな想いで作られましたか?

由香梨さん:全てが事足りるように考え抜いて作ったので、器に関してはゴールにかなり近づいたかなと思っています。

着ない服や使わない器があると、パワーが落ちているように見えてかわいそうだなと思うようになったんです。エネルギーが行き届いていないような感覚に感じてしまうので、家にある全てのものにイキイキとしていて欲しいという思いから、厳選された戦力の強いチームを作ろうと。

shirako no ieがはじまった時に、日本の美意識を吸収するタイミングにもなり、日本家屋にも自然にも合うし、これからの未来に食というものを伝える上でどんな器を作ろうかと考えました。そこで、トーラスというエネルギーの形を縁取ってデザインしました。食事は、命をいただく、命を繋いでいくというとても神聖なものだからこそ、感謝を持って有り難くいただいてもらいたいと思ったので、凛としたものになるようにと考えました。

行方:そんな中、選んでいただいたのがこちらのグラス。Ronaという創業100年のスロバキアのガラスメーカーのものです。

由香梨さん:仲の良い友達たちとゆっくり語り合いながら食事をいただくという時間が本当に幸せを感じます。ワインや日本酒を飲みながらいただくことが多いので、グラスはとても大切な存在です。気楽にカジュアルに飲むのが好きなので、こちらの可愛いグラスを選びました。心の豊かな時間を作ってくれるので、グラス選びは大切にしています。

行方:こちらは6ozで190ccと、肩肘張らずにカジュアルに使えると思います。少しアンティークを思わせるようなステムデザインもいいですよね。

そして、もう1つ。由香里さんの大切なパートナーでもある愛犬クレーマ用のHUNTERエデュケーションスペシャル&トレーニングリード。馬具職人であり、犬のオーナーでもあるロルフ・トラウトワイン氏が、36歳のときに犬用の高品質なアクセサリーを作るという夢を実現し、1980年に設立したHUNTER社のアイテムです。

革はドイツの職人によって巧みに手織りされていて、折り目が犬の引っ張る力を均等に分散し首への負担を減らしてくれる優しく快適な作りになっています。労働安全衛生および承認されたなめし剤、化学物質の使用に関する厳しい欧州のガイドラインを厳守し。すべてのなめし工場は欧州全体で適用されるREACH指令の規定に則っています。

由香梨さん:この方(愛犬)はスペシャルなので(笑)。大型犬のグッズってなかなかないのですが、とてもおしゃれなものがあったので選びました。しなやかなレザータイプは長く使えるし、一生ものですね。

雑誌の撮影現場を見学して「ここにいたい!」と強く思ったことからファッションスタイリストへの道を歩んだ由香梨さん。流れに身を任せるように、余白を泳ぐようにしなやかに選択と創造を続けていらっしゃいます。「こうあるべきだ」と自分を縛らずに、その時の気持ちに真っ直ぐに選択をされてきた結果、次世代に繋いでいくような素敵なものたちを選ばれ、そして生み出されてきました。時を経ても色褪せず、確かな技術を持って作られてきたアイテムをセレクトしているLOST AND FOUNDのコンセプトとも通ずるところですね。

<記事内紹介商品>
Rona フランス 6oz ワイン
¥1,595
HUNTER 犬用 リード ソリッド エデュケイション 16/150 ブラック
¥10,450
HUNTER 犬用 カラー ソリッド エデュケイションスペシャル 45/S ブラック
¥9,900

行方ひさこ@hisakonamekata
ブランディング ディレクター
アパレル会社の経営、ファッションやライフスタイルブランドのディレクションなどで活動。近年は食と工芸、地域活性化などエシカルとローカルをテーマに、その土地の風土や文化に色濃く影響を受けた「モノやコト」の背景やストーリーを読み解き、昔からの循環を大切に繋げていきたいという想いから、自分の五感で編集すべく日本各地の現場を訪れることをライフワークとしている。2021年より、地域の文化と観光が共生することを目的とした文化庁文化観光推進事業支援にコーチとして携わる。


Interview & text Hisako Namekata
Photo by Naoki Yamashita

※記事に掲載されている価格は、投稿当時のものとなります。