ひとつの物について深く探っていくことで、物選びがグッと楽しくなる。
この連載では、LOST AND FOUNDセレクター・小林和人さんが、このお店で選んだアイテムの中から毎回ひとつをピックアップし、とことん話します。
今回小林さんが話してくれたのは、長く愛用できるステンレス鍋・フライパン「ALESSI」についてです。
NIKKOとの歴史的な関わり
小林さん:ALESSIのデザイナーであるJasper Morrison(ジャスパー・モリソン)は、実はNIKKOと深い関わりがあるんです。2000年代初め頃にIDÉEから発売されていた『MUD COLLECTION』というプロダクトシリーズは、彼がデザインを手がけ、NIKKOのボーンチャイナを使って作られていました。NIKKOのデザイン室長が彼と打合せをした際、『柳宗理のプロダクトを製造している企業と仕事をするのは光栄だ』と言われたそうですよ。
造り手の体温を感じるデザイン
小林さん:Jasper Morrisonのデザインは、シンプルで余分な要素をそぎ落とした“調理道具然”とした感じもありつつ、そこはかとないエレガントさもあります。そのバランスが肝だと思います。
鍋の蓋の持ち手は木べらを差して持ち上げる工夫が隠れています。深い鍋の側面はストンとした寸胴鍋のような形状ではなく、ほんの少しだけ、食欲をそそる美味しそうな丸みがあります。これは冷たいステンレスの製品だからこそ映えるデザイン。随所にデザイナーの体温を感じ、チャーミングな印象すら受けます。デザインも料理も、“さじ加減”が大事ということを教えてくれます。
隠れた主役は「ターナーワイド」
小林さん:28cmのフライパンで目玉焼きを作りながら気づいたのが、お皿に盛り付けるときに、よくあるサイズのターナーだと心もとないなって。勢いでシャっと持っていかないといけない。でもポルトガルのナイフメーカー『ICEL』のそれは、幅も長さも余裕があって、しなりを持たせながら簡単に食材の下に差し込むことができます。ステンレスのフライパンとの相性が良く、今日の隠れた主役です(笑)。
BIGな人間になりたければ!?
小林さん:コーティングされているわけではありませんが、高温に熱してから油をしっかり引いて使うと卵が全くくっつかないです。深さがあるので、炒めものの際にも食材がこぼれづらいです。
妻に指導してもらいながら、じゃこと小松菜のパスタを作りました。満水時に8ℓ入る大きな鍋はパスタを茹でる時に。麺を対流させることが大事とよく言いますが、この鍋で茹でていただきたいです。
そういえば、友人のグラフィックデザイナーが、『借りた物件の大きさに応じて大きな仕事が入ってくる』と言っていました。大きな仕事をしたければ大きな物件を選べ!BIGな人間になりたければBIGな鍋を買え!ってことですね(笑)。
ステンレスのフライパンは使いづらいのでは?と不安に思っている方も多いかもしれない。しかしポイントさえ押さえれば、長く愛用できるアイテム。優れたデザインは小林さんの言葉のとおり、さらに保温性に優れ、食材に熱が均一にすばやく伝わる3層構造など、良いこともたくさん。フッ素加工が好まれる時代、それはそれで役割があるけれど、コーティングをしていないステンレス鍋の良さもある。ALESSIは、ずっと使い続けながら、仲を深めていきたいアイテムだ。
<記事内紹介商品>
小林 和人 @kazutokobayashi
1975年東京都生まれ。1999年多摩美術大学卒業後、国内外の生 活用品を扱う「Roundabout」を吉祥寺にオープン(2016年に代々木上原に移転)。2008年には非日常にやや針の振れた温度の品々を展開する「OUTBOUND」を始動。両店舗のすべての商品のセレクトや店内ディスプレイ、展覧会の企画を手がける。
「LOST AND FOUND」ではセレクターを務める。
interview & text by Sahoko Seki
photo by Naoki Yamashita
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