Dec 15.2022

小林和人×幅允孝 1周年記念対談 vol.2 幅さんが小林さんに選んだ本の話

LOST AND FOUND旗艦店オープン1周年を記念して、プロダクトセレクターを務める小林和人さん(Roundabout, OUTBOUND オーナー)と、彼がラブコールを送ったBACH代表・幅允孝さんの対談が実現しました。今回は話が弾んだ対談の後半、幅さんが小林さんに本をオススメします。

空港での没収品を撮影した“LOST AND FOUND”な写真集

幅さん:まずは、オランダのアーティストでデザイナー、クリスチャン・メンデルツマの最初の卒業制作『Checked Baggage』を知っていますか?彼女はデザイナーとして世界的な注目を集めています。表紙の部分にカミソリやらナイフ?やらが入っているのですが、これも含めて一冊の本。
実はこれ、飛行機に乗るときにカバンの中に爪切りやナイフが入っていたら、没収されてしまうじゃないですか。スキポール空港(アムステルダム)で出た、そんな1週間分の大量の没収品を1冊の写真集にまとめたんです。
種類ごと、色ごとに、綺麗にページを分けて撮影されていて、完全にタイポロジーの世界ですよね。没収されたものを写真集にして、しかも没収された何かと一緒にパッケージするっていう、これ、LOST AND FOUND感ありません?

小林さん:まさに!並びが美しいから、見ていて飽きないですね。(ページをめくりながら)爪切りもダメなんだ!

幅さん:気をつけてくださいね。
色々妄想が膨らみますよね。なんでこれを持ち込んだのだろうとか、朝慌ててたのかなとか。

小林さん:自分も店で商品の陳列をしていて、標本的な展示というのが念頭にありまして。

幅さん:まさに、ですね。
この本は2004年に1000冊の本が出版され、一冊ごとに没収された元の品物が手渡されています。しばらくレアブックと呼ばれていたのですが、このほどもう一度リプリントされました。
2004年と2022年だと、やっぱり飛行機に乗ることの意味や、テロに対する考え方が変わってきていて。当時はまだ少しだけ“遊べる、笑える”といった感じだったのが、今はシリアスな感じになっていますね。
飛行機に乗ってどこかにいくということ自体が、すごい希少価値に変わりつつある。円も安いし、コロナもなかなか治まらないし。
そういったことを考えると、同じ本でも実は二度と同じようには読めないと思っています。時間を経て、パラパラとめくりながらちょっと考える部分があったりして。何かを説明したり、答えを与えてくれるものではないですが、考える余白は多い1冊なんじゃないかなぁと思って、選んでみました。

小林さん:まさに重層的な価値を帯びた1冊ですね。改めてこの場で見ると価値を発見できて。嬉しいなぁ。

小林秀雄 目線で 美しいものを見たときの人間の感情を解いた一冊

幅さん:続いて、若松英輔さんの『小林秀雄 美しい花』を読んだことはありますか?
若松さんは三田文學の編集長もしていた、詩人・批評家としても知られている方ですが、この本は小林秀雄の評伝ですね。彼なりに小林秀雄を肉薄して書いた一冊です。
小林秀雄は文学批評大家であり、あらゆる“美”というものに対して探求を深めた人なので、最初はちょっと難しいと思うし、険しい目で睨まれているような感じもしちゃうかもしれません。
でもこの1冊からスタートすると、小林秀雄という人の本当の魅力と、彼がすごく深いところに潜って考えていた理由がよくわかるんです。

小林さん:僕はずっと、小林秀雄と数学者の岡 潔との対談、『人間の建設』が積んだままになっていて…。

幅さん:岡潔は理数系の人ですからね。究極の理系と究極の文系の二人が一周回って共通項を見つけるという、あれは素晴らしい本ですね。
小林秀雄が研究したランボオ、ドストエフスキイなど、直接そういう本を読むのも良いのですが、僕はまず小林秀雄氏の“人”みたいなものを知っていただいて、それからオリジナルにいっていただくのが良いかなと思います。
で、なんでこれを小林さんに選んできたかというと…
タイトルにもなっている、『美しい花がある。花の美しさという様なものはない』っていう有名な小林秀雄の言葉がありますが、若松英輔さんなりの考えを披露してくれているんです。
やはり、美学を深めていた人だから、しかもそれを広めようと批評していた人だから、本来なら雄弁になるじゃないですか。美しいものに対していろんな言葉をあてがったり、美しさについて考えようとそれを定義したり、否定していこうとする。
でも、本当に人が美しいものを見たとき、そんなに雄弁にはならないのではないか。人は黙る。そして、自らの手でものをつくりたくなるのではないか、ということを小林秀雄は言っている。それが本当に美しいものに出くわした時の人間の感情なのではなかろうか、ということを書いているんです。
それを若松英輔さんがわかりやすく説明してくれています。結局自分も批評っていう、言葉を尽くして美を語ることしかできないけど、本当に様々な物づくりをしている人たちと同じような精度と、芯と深さみたいなものを持って、“批評”という書く行為をどうやって極めていくかを考えていた人ですね。

小林さん:伴走者としての矜恃というのか、批評対象と同じ強度を持ってね。

幅さん:やっぱり小林さんも美しいものって何だろうって、常に考えながら仕事をしているから。
自分なりに言葉をうまくあてがって、美しさというものを何とか伝達しようとするわけですが、とはいえ、それってすごく難しいこと。難しいからこそ、それを生涯かけて挑んできた小林 秀雄という人の流れがわかります。
そういう意味で、ぜひ小林 和人先生に読んでいただきたい。小林の仲間として。

小林さん:それは是非とも読まねば、ですね。そういえば若松さんがラジオでお話しされているのを聞いて、熱い方だなと思った覚えがあります。

幅さん:自分はすごく好きですね、彼のこと。この本では、小林秀雄が憑依したかのようです。

小林さん:最近、ドフトエフスキイとか、学生時代に読んでおくべきだったような、所謂名作というか、そういうものを読まなくちゃいけないなと思っていて。

幅さん:古典は重要ですね。

小林さん:そうそう、ある方の本でにあったのだけど、『名作を体に通過させる』というのが必要だなと。短期的な意味じゃなくて、さっき幅さんが言ったように、遅効性みたいなことと重なるような意義があるかなって。

幅さん:古い小説を、3分間であらすじだけ読んで、読んだ気になるみたいなことももちろんできるのですが、本当に主人公と自分の感情を重ねて、あの世界にすーっとゆったり潜っていく…読んでいて苦しいとか、そういうね。
今はエンターテイメントが受動になってきている気がします。YouTubeでもなんでも、自分で選んでいるようで、アルゴリズムで勝手に再生されている。見ているというよりは、見せられているというか、自分の余白に注入されているような感じ。
でも本のいい所って、読んでいる途中で止まったり、読み戻ったり、別の資料をあたったり…自分でコンテンツに接している時間をコントロールできること。あくまでも主体が自分で、ここ(本)にどう入っていけるのかが問われているという意味で、やっぱりちょっと違うんですよ、他のエンターテイメントとは。
今は人間よりもシステムの方がどんどん上位にきていて、そこから落ちてくるもので時間を楽しく過ごしているのだけど、やっぱり僕は主体的に選んで、自分でいろんなことを判断できるように生きていきたいと思っています。
そういう意味で、紙の本はしばらくやり続けます。

小林さん:さっきチラッと苦しみという言葉が出ましたが、それって時として負荷を受け手にもたらすというかね。

幅さん:やっぱり読書にも筋力がいるんですよ。長いものをずっと読むことをしばらく忘れていて、斜め読みに慣れすぎちゃうと、長いものを全然読めない。自分でもそう。
でも頑張って読んでいると、だんだん戻ってくるんです。自転車と同じ、読み方は覚えていますからね。
でもそういう意味で、本当に久方ぶりにしっかりとしたものをゆっくり、口の中で飴玉転がすように読むというのは、悪くないんじゃないかなぁと思います。
ぜひ読んでみてください、3300円です(笑)。

小林さん:でも、そこから得られるものはね!

幅さん:すごいですよね。本は高い、高いって言われますが、一生読み続けられますからね。そう考えると本当にすごいものだと思います。

――
2回に渡り、小林和人さんと幅允孝さんの対談をお届けしました。
編集という仕事に携わるお二人が選ぶモノゴトの話、いかがでしたでしょうか。
画面の中で全てを完結できてしまう世の中ですが、自分で足を運んで手に取ってみる、もしくはページをめくってみる…そんな買い物や読書の時間を大切にしてみたくなったのでは?
LOST AND FOUNDの2年目、皆さまの大切な時間を有意義なものにできるよう、これからも小林和人さんとともに楽しい店づくりをしていきます。

text by Sahoko Seki