オープン1周年企画 アートディレクター・平林 奈緒美さん×小林 和人さん 対談

2022/11/04

富ヶ谷の地にLOST AND FOUNDの旗艦店がオープンしてから1年。
これを記念して立ち上がった企画が、「1st ANNIVERSARY BAZAAR」というマーケットイベントです。アートディレクターの平林 奈緒美さんと、プロダクトセレクターを務める小林 和人さん(Roundabout, OUTBOUND オーナー)の審美眼により、各地“忘れ物保管所”のデッドストックやユーズド品から大切なものを集めた“バザー”。
お二人はどんなものを発掘したのでしょうか。

――小林さんが選んだお店で、お二人揃っての買い付けはいかがでしたか?
平林さん:すごく楽しかったです。こういうショップ巡り、毎月やりたいですね。
小林さん:無作為にいろいろ集まってる場所っておもしろい。特に一箇所目は源泉掛け流し感があってよかったですよね。

平林さん:海外にはよくあるんですけど、日本のマーケットって既に誰かの視点で選ばれたものが並んでいて、ハズレもない代わりに発見もあまりない。
小林さん:今回は“機械生産ならではの良さ”を感じるものを多く選びました。同一規格で積み上がっている感じが良いんですよね。
手仕事のものの良さもありますが、規格品の整然とした“反復の美”みたいなものにも魅力を覚えます。

GYOZAVAT

平林さん:分かります。特にアメリカの業務用のものって、ちょっとした愛嬌がありますよね。これは日本のものですけど、(「GYOZAVAT」を指しながら)こういうのは可愛いですよね。
小林さん:この文字に愛嬌があります。
平林さん:書体もなんだか可愛らしいし。
小林さん:このバットもエンボス(文字)のないものがあったんですけど、「GYOZAVAT」っていうのが、日本語の「餃子」として認識されない感じでいいんですよ。
僕だったら、3台重ねて、「要返信」「ちょっと寝かせておく」「1週間たったら破棄」みたいな資料を整理したり。コピー用紙のストックにも良いかも。白い紙が積んであったら綺麗なんですよね。

小林さん:買い付けで印象に残ってるのが、平林さんの見つけてきたものを見ると、なんか四角い形状のもの、箱が多いんですよね。
平林さん:確かに。四角いもの、特に箱モノは好きかもです。
小林さん:箱に弱い部分がありますね。

CAMBRO フードパン

平林さん:(CAMBRO フードパン を指しながら)これはウチに全部欲しいです。
小林さん:平林さんだったら何を収納するんですか?
平林さん:家にストックルームがあるんですけど、その棚にずらっと揃えて、マスクとかパスタとか…入れたいですね。
――そういう時はラベルを作るんですか?
平林さん:作りたいと思うんですけど、ちゃんとしたものを作るには覚悟がいるから、結局ポストイットに仮で書いたものをいつまでたっても貼ってあるっていうね…笑
小林さん:それが格好良かったりしそうです。

――平林さんは小林さんの買い付けで感じたことはありますか?
平林さん:小林さんはやっぱりご自身でお店を持たれているから、いろんなバランスを考えてセレクトしてるな、と思いましたね。
小林さん:このアイテムでカサ増ししておこうとか…いろいろ考えちゃいますね。

American Standard ソープトレイ

平林さん:私的に今回のイチオシは、小林さんが見つけたコレ(American Standard ソープトレイ)なんですよね。
小林さん:嬉しい!
平林さん:アメリカンスタンダードの、陶器のバスルームのシェルフ。歯磨きを置いて、石鹸はベタッとつかないように置ける。
こういうの、家のリノベーションをしたときに結構探したんですよ。でもこんな綺麗なデッドストックはなかなかなくて。今の時代に作っていても全然いいと思うデザインなのに。

小林さん:逆に今は例えば抗菌仕様のものとか…機能性ばかりを追い求めて、情緒的な部分がなくなっていますね。
平林さん:逆に変にソリッドでオシャレにしちゃったりして。
小林さん:妙に作り手の自意識が染み込んだ感じが鬱陶しかったりするんですよね。見られていることを意識していない業務用のものなんかは素っ気なさが肝なんですけどね。

TANITA はかり

平林さん:そういう意味で、この「タニタ」の測り(TANITA はかり)も良いですね。デザインはちゃんとしてるんですけど、その“自意識”が滲み出てこない。
小林さん:デザインされている以上、作為によって生まれているんですけど、表出の仕方というのかな。近年、“映え”みたいなことが重要視されている社会になってきた故に、人目につくようにしなきゃいけない、みたいな無意識の“映え圧”が...
平林さん:デザイナーは映え圧を超えられないっていうね。
小林さん:だから古き良き時代のものは良いですよね。「タニタ」はデジタルのイメージが強いですが、この物理的な目盛りも良い。

ハミングブラシ

小林さん:僕は平林さんがコレ(ハミングブラシ)をチョイスしたのにグッときましたね。
平林さん:それを選んだのは1店舗目だったから、どんなテンションが正しいのかわからず、というところもあるんですが(笑)。
小林さん:心の距離感がグッと縮まりました。笑
平林さんていうと、多くの人がデザインサイボーグ的なイメージを持っていると思うんですが、こういうものを選ぶのが良い。
平林さん:みんな結構勘違いしてるんですけど、私はこういうものも好きなんですよ。
ちなみに、育ち盛りの子供のいる家庭には必ず一つはあると言われている「ウタマロ石鹸」のデザイン、あれ、私です(笑)。いわゆるオシャレにしちゃいけないものというのもあると思うんです。とはいえ、オシャレじゃないわけでもないんですが。

小林さん:えーーー!!!知らなかった!やっぱりいいですね。私が私が…って前に出てこないデザインです。
平林さん:セレクトショップに選ばれて売られているようなものをデザインするのも楽しいですけど、ドラッグストアの中に並ぶようなものをデザインするのも、また別な楽しさがありますね。
だからこういうアイテムも好きなんです。

小林さん:謎が解けましたね。一緒に買い付けをしてからこの対談という一連の流れはデザインの実地問題とその答えわせみたいですね。
平林さん:50年後くらいにまたこういう企画をやったとき、デザイナーが頑張ってオシャレにしたものって残らなかったりするんですよ。でもリマスタードみたいなものはきっと残っていると思うんです。

NIKKOの器

小林さん:このNIKKOのダブルフェニックスのバックスタンプは貴重なんですよね。この時代の強化磁器ならではの質感が良い。
平林さん:(NIKKOのカップを持って)これなんか、デザインがDDR(東ドイツ)っぽくないですか?
小林さん:確かに!笑 
――平林さんはデザインとしてドイツが好きなのでしょうか。
平林さん:そうですね。ドイツって、例えば業務用のグラスには必ずメモリがついてるんですよ。高級なクリスタルでも。氷なしでそこまで液体が入っていないといけないっていう。そういう実直なところがデザインに反映されているところが好きですね。
小林さん:流石、機能の国ですね。

平林さん:今回、こういう買い物に行ったのは久しぶりでした。楽しかったです。
小林さん:20年前「Roundabout」をオープンする時に、アメリカンスクールのバザーに行ったんですよ。昔のアメリカのポータブルプレイヤーが見つかったり、少林寺拳法の入門書があったり…。ああいう感じが楽しいんですよね。
平林さん:「バザー」っていう響き、いいですね。今回の企画は「バザー」って呼ぶのが良いかも。
一同:流石!いいですね!

確かな技術に基づいて長い間作り続けられてきたのに、世の中に溢れた多くのものに紛れてしまったり、今も通用するのに時代の流れに埋もれてしまった、良いものが見つかる場所

LOST AND FOUNDのブランドコンセプトです。
対談をご覧いただきお分かりかと思いますが、今回のマーケットイベント「1st ANNIVERSARY BAZAAR(バザー)」には、この想いを込め、お二人の視点で発掘した様々な日用品が並びます。
是非皆さま足を運んでみて、もし気に入ったものがあれば、是非長く愛用してください。

interview & text by Sahoko Seki
photo by Naoki Yamashita

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