小林和人が選んだもの 「ブラシの話」

2022/04/15

ひとつの物について深く探っていくことで、物選びがグッと楽しくなる。
この連載では、LOST AND FOUNDセレクター・小林和人さんが、このお店で選んだアイテムの中から毎回ひとつをピックアップし、とことん話します。

今回小林さんが話してくれたのはREDECKERのブラシについてです。

ブラシの魅力とは

小林さん:REDECKERは私の店でも長く取り扱っていて、馴染み深いブランドです。
海外の蚤の市に行くと、ブラシって何故か買っちゃうんですよね。古い試験管やビーカーとかもそう。置いてあるだけでグッとくるものがあります。
何故惹かれるのだろう…と考えたのですが、異素材の組み合わせが良いのかなぁ。木部と毛の部分が響き合うような。

クラシックとレトロ

小林さん:REDECKERが良いと思うのは、クラシックな佇まいに尽きると思います。
自分の中で明確に違うのが、「クラシック」と「レトロ」という言葉なんですが、REDECKERは決してレトロではなく、クラシックなんです。
レトロとは、懐古主義的な必然性のない振り返りというか、懐かしむ気持ち。
クラシックとは、過去から受け継がれているんだけど同時代に息づいていける、未来に繋がっているようなもの。そんなニュアンスの違いが自分の中にはあります。
ココのブラシたちは、昔は当たり前だったと思うのですが、他のブランドがモダンな姿に形を変えていく中で、良い意味で取り残されながらも、現代をともに生きていきたい存在。とても貴重な存在なんですよね。

店休日の掃除スタイル

小林さん:一言でブラシと言っても、様々なブラシがあります。これだけあれば掃除が楽しくなりますよね。
やったらやっただけ綺麗になる掃除は、気持ちもスッキリします。店休日にRadikoでTBSラジオを聴きながら掃除するのが私のスタイル。
「おぎやはぎのメガネびいき」とか宇多丸さんの「アフター6ジャンクション」がお気に入りです(笑)。

ブラシの“専門性”

小林さん:ブラシメーカーだけあって、一つひとつ専門性があるというのも惹かれるところ。
ずっと触っていられる柔らかい山羊毛を使ったほこり取りブラシや、長く伸びたものは棚などの隙間用ブラシ、4本のブラシが一体化されたのはブラインド用ブラシ。あらゆる専用ブラシは、壁にかけて全部揃えたくなります。
どれも日用品の中で出突っ張りの主要キャラクターではなく、ときおり現れて威力を発揮するタイプで、そう考えると味わい深い。
やっぱりドイツで作られたものは実直な素晴らしさがありますよね。


取材中、小林さんはずっと「ほこり取りブラシ」を触りながら穏やかな表情で話してくれた。そして最後に、「猫や犬を撫でるとセロトニンが出るっていうけど、それに近いものがあるんじゃないかな」とブラシを愛でていたのが印象的だ。
掃除用具ひとつにも、そんな愛情を持って向き合うことができたら幸せではないだろうか。

<記事内紹介商品>


小林 和人 kazutokobayashi
1975年東京都生まれ。1999年多摩美術大学卒業後、国内外の生 活用品を扱う「Roundabout」を吉祥寺にオープン(2016年に代々木上原に移転)。2008年には非日常にやや針の振れた温度の品々を展開する「OUTBOUND」を始動。両店舗のすべての商品のセレクトや店内ディスプレイ、展覧会の企画を手がける。
「LOST AND FOUND」ではセレクターを務める。



interview & text by Sahoko Seki
photo by Naoki Yamashita

※記事に価格の掲載がある場合、表示価格は投稿当時のものとなります。

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