BONEARTH TABLE開催決定!南青山の日本料理店「てのしま」による、「ごちそう!おにぎり店」を限定オープン

新米の季節がやってきました。捨てられる食器をリサイクルした肥料で作る「BONEARTH米」も、ふっくらとした美味しい新米の収穫時期となります。
せっかくなのでより美味しく、そして楽しく、皆さまにお届けするために、南青山の日本料理店「てのしま」とともに、一日限りの「ごちそう!おにぎり店」をオープンします。
10月26日(日)にLOST AND FOUND 地下1階 NIKKO ショールームにて、「てのしま」が美味しく炊いた白米を“皆さんとともに”心を込めてにぎり、更にBONEARTH野菜を使ったとっておきのおかず、汁ものとともにお楽しみいただくというワークショップ形式の特別店となります。
今回はオープンに先駆けて、「てのしま」を営む林ご夫妻にお話を伺いました。
てのしま」料理長 林 亮平
1976年香川県丸亀市生まれ、岡山県玉野市育ち。立命館大学卒業後2001年株式会社菊の井に入社し、老舗料亭『菊乃井』の主人・村田吉弘氏に師事。20以上の国や地域で和食を普及するためのイベントに携わる。2018年『てのしま』開業。京都で習得した日本料理の技法、海外で磨いた知見と感性をもって郷土“せとうち”と向き合い、自らのルーツである香川県“手島(てしま)”の再興を目指している。日本料理アカデミー正会員、食文化ルネッサンスメンバー、Chefs For The Blueメンバー。
林ご夫妻が営む、南青山で日本料理店「てのしま」は、「現代の民藝」をテーマに、どこかにありそうでどこにもない新しい日本料理のカタチを更新し続けています。お二人の行動は店舗の営業だけにとどまらず、「食文化を未来へつなぐ」をテーマに、時には食育イベントで保育園生や小学生に「出汁」や「和食」について教えたり、異なる業態とコラボレーションイベントを行ったりと、食の未来につながる活動のため日本全国だけでなく、世界中の食の現場に足繁く訪れています。さらには、トップシェフとジャーナリストたちにより100年先の水産資源の未来のためにと立ち上げられた「chefs for the Blue」の活動にも意欲的に参加されています。
お二人を突き動かしている熱意の源はどんなものなのでしょうか。
料理への道のり

―少し遡りますが、料理の道に進まれたのはどういうきっかけだったのでしょうか。
林さん:「私の父は高校の教員で世界史を教えていました。中学生の頃から勉強が好きではないことは知られていたので、「高校や大学にいく必要がないのではないか、料理が好きならその道での良いのではないか」と言われていたのですが、さすがに中卒で丁稚修行をする勇気がなかったので、続けていた大好きなバスケットボールもしたいと高校に進学し、二浪して大学に入りました。小さい頃から母を手伝うのが好きでしたし、アニメを見るような気分で料理番組を見ている子供でした」
紗里さん:「小学生の卒業論文には将来はコックになりたいと書いていたそうですよ」
林さん:「そうそう。母がとにかく自然派だったので、近所のスーパーで買うのではなく、調味料なども含め全てを全国から取り寄せていました。当時は周りにそんな人がいなかったので、父親からは「外では絶対に言うなよ。」と言われてましたね(笑)。ものすごいエンゲル係数だったと思います。
大学では「集団自炊サークル フライパン」というサークルを立ち上げて、週に2度程みんなで料理を作っていました。それだけでなく、日々自分でも料理をしていましたね。母親から「野菜を食べないと死ぬ!野菜の中でも色のついた野菜が大事!」というような恐怖を植え付けられて育ってきたので、一人暮らしでしたが常にかぼちゃを炊いているような、とにかく毎日何かしら料理をしている学生生活でした(笑)。
就職活動をして、企業から内定をもらっていたのですが、好きなことを仕事にする勇気を持った方がいいと一念発起し、父親に「料理人になりたい!」と直談判したところ、「そんなことだろうと思っていた、好きにしたらいい」と言ってもらい、料理の世界へと入りました。本当にありがたかったですね。料理店には何のツテもなかったので、友達の知り合いのお店からスタートし、大学のキャリアセンターや就職部に行ったりして探しましたね。勉強するのには本を読むしかなくて、「菊乃井」の村田さんの本を読んでみたところ、料理哲学が素晴らしい!と感銘を受けたんです。そこから面接に行き、働かせてもらうことになりました」
師匠から学んだこと

―和食のユネスコ無形文化遺産登録を実現させた「菊乃井」主人の村田吉弘氏の右腕として18年勤めてきた林さんですが、「菊乃井」で印象的だったことはどんなことですか?
林さん:「菊乃井の大将は「日本料理を世界に広げる」ということをライフワークにしている方です。その活動をどんどん広げていく時期に修行をさせていただいたので、様々なことを経験させていただきました。 秘書・海外対応・入管手続連携などを担い、万博案件や機内食、海外講演・学会対応など多岐にわたって特命係のような役職に従事させていただきましたね。20カ国以上に行き、様々な場所で料理を作ったり、話したりしてきました。そんな中で、「料理を通じて、いかに社会貢献をするのか」と言うのが、師匠から常に言われてきた言葉です。本音に裏表がない素直な方なんです。そこがものすごく好きで、本当に助けられたと思っていますし、だから17年間働かせてもらっていたんですよね」


林さん:「世界各国の料理人と会う機会もあり、その時に感じたのが「家庭で作られた本物の味」を食べてきた人は感受性、料理や仕事の力が格段に高いということです。「味をつくる」ということは、自分が持っているデータを組み合わせることなんです。味付けって真似るしかない、食べたことのない味は再現できないんです。後輩が入ってくるようになって、賄いを食べてみると、美味しく作れる子はちゃんと作られたものを食べて育ってきている子なんです」
紗里さん:「忙しい中でカット野菜と出汁入りの味噌でお味噌汁を作るだけでも、本当に頑張っているし偉いと思います。でも、やっぱり丁寧にとった出汁で作ったちゃんとしたお味噌、きちんと選んで切った野菜とでは全く味の複雑味が違うものになるんです。子供は、きちんとそれを感じていると思います」
林さん:「子供は、目に見えていない何かを捉えているんだと思います。だから、食育は本当に重要だと感じています」
自然界で起こること全てが循環の一部だと受け入れる生活感
―SNSを拝見していると、様々な食の現場に足を運んでいらっしゃいますよね。ここ最近で、印象的だった場所はありますか?
林さん:「ベトナムですね。イベントの時に会場となったホテルのレストランの料理長がめちゃくちゃ優しい職人で、出汁がとても素晴らしくて!感激してそれを伝えたら、仕込みを待っていてくれて、ゼロから全ての材料を見せながら全部教えてくれたんですよ。とても複雑な味なのに、こんなにシンプルな材料なの!?って。出汁の元になる鶏や豚そのものに力があるんです。ベトナムの畜産の考え方が、日本と違って高度に工業化されていないので、そこが味の違いなんだろうなと思いました。
次に訪れた今年の3月には、漁業や農業の支援を仕事にされている方に、ベトナムの生産現場に連れて行っていただきました。子供達も一緒に連れて行ったのですが、食べられるものがないかもしれないという心配をよそに、ものすごくよく食べてくれました。田舎の方に行けば行くほど素朴で素材の味を活かした優しい味なんですよね」
紗里さん:「そうそう、二次加工がないんですよ。ホテルの朝食のバイキングも全てが地元の食材を使った手作りで、シンプルなのに本当に美味しかったです」

林さん:「決して物質的には豊かとは言えませんでしたが、でもみんなが本当に幸せそうで。みんな子供に優しいし、日々の生活が笑顔で溢れている。村では鶏とひよこが走りまわってるし、豚や水牛もその辺で暮らしてる。「疫病があったら家畜が全滅してしまうのではないですか?」って聞いたら、「何年かに一度全滅してしまうこともありますが、また一から育てなおします」と。それが自然の淘汰であり、摂理なのかもしれませんね。
通訳なしでは言葉も通じないはずなのに、みんなで気持ちよくお酒を飲み交わし、幾度となく乾杯をしました。村長さんの家で飲んでいたら、隣村の村長さんが「うちにも来てくれ!」と言うので、移動してまた乾杯が始まる(笑)。彼らは自分たちの手で生活を作っているという自負があり、その土地に対する誇りもあるんですよね。みんな「俺たちは金がない。」って言うんですよ、「東京に行きたいけど、金がない。」みたいな。でも、行きたいとも思ってないんですよ。興味もないし、金がないからって何も卑屈には思っていない。
最後に村長に「お前と会えてすごく楽しかったから、いつでもここに帰ってこい。ここはお前の場所だ。」って言われたんです。この言葉は、てのしまの店名の由来でもあり、僕の本家がある手島の港で叔父に言われた言葉と一緒なんですが、まさかベトナムの山奥で言われるなんて!もうね、号泣ですよ。二人で抱き合って泣きました。で、ふと紗里はどこかなと思ったら、近くの車で酔っ払ってのびてたんですよね(笑)。
日本では、生活のほとんどのことが外注できるようになって、自分の手で何かを作ることが減っていますよね。でも、本当に人間がするべきことってなんなんだろうって。もう後戻りはできないんだろうけれど、これから未来へ生きていくにあたって、すごく大切なものを見せてもらった気がします。子供の頃になんとなく持っていた感覚って、やっぱり国を越えると思ったし、生き物としての根源的、本質的なところを体験できたのが刺激的でした」
料理から学んだ循環
「菊乃井」時代、世界各地で和食の魅力を発信する一方、日本の食文化の根本が揺らいでいることへの不安を感じていたという林さん。担い手不足や資源の不足、生態系の変化が、日本のあらゆる一次産業で起きている。独立に向けて、日本各地の生産者を訪ねる中で、その危機感は一層強くなったといいます。Chefs for the Blueの活動も、何か行動をしなくてはと考えていた時期と重なり、少しでもいい、何かをしなければ、もはやこの豊かな自然と日本の食文化の循環を守れない、次の世代につないでいけない!1センチでも明るい方に向かえるなら、何かアクションをしなければ!と迷わず参加したそうです。
―NIKKOボーンチャイナのうつわがBONEARTHという肥料になり、その肥料でお米や野菜が作られると言う循環について、どう思われましたか?

林さん:「うつわと肥料と農作物の関わり合いが目に見えて分かるからすごい!と思いました。様々なことは全て繋がっているのですが、それが今の世の中では断片的にといいうか分業化がされすぎてしまっていて、想像が及ばなくなっていると思うんです。そういう意味で、あえてこう、色々な形で循環を提示するということがすごくわかりやすいと思いました」
紗里さん:「小さい子供にはなかなかわかりづらいとも思うんですよ。だから、もっと直感的に体感で理解できるようなことをイベントで提案していきたいですね」
イベントについて、一言お願いいたします。

林さん:「言語化が難しいことでも、食事をすると言うのは何か伝わるものはあると信じています。そんなに簡単に伝わるものでもないとも思っているのですが、でもその中で1人でも、なんらかの記憶が残ってくれたらいいなと思うんです。千人に一人だけでも、美味しかった、面白かった、これってどう言うことなんだろうと何か記憶に残ってくれるような体験を目指していきたいです」
目の前で一生懸命に作る、伝える。その姿勢が技術を超えて人の心に届くと信じているという林さん。この熱い想いとともに、一人でも多くの人の心に届くおにぎり店でご一緒するのが楽しみでなりません。
心をこめたシンプルな料理こそが、「ごちそう」です。皆さんの記憶に色濃く残る食体験になるよう、LOST AND FOUNDの特別企画、心が潤う「ごちそう!おにぎり店」で皆さまをお待ちしています。ご家族やご友人と一緒に、もちろんお一人でも気軽にお越しください。そして、当日は数量限定ではありますが、テイクアウトのセットもご用意しています。
Interview & text Hisako Namekata
Photo by Kiyoko Eto
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