「OKUSHIBU ご近所トーク」SHIBUYA PUBLISHING & BOOKSELLERS(SPBS)の佐和千晶さんインタビュー

LOST AND FOUNDに来たなら行くべき話題のご近所スポットに、エリアの魅力と自店の紹介をたっぷり話していただく連載「OKUSHIBU ご近所トーク」の第二回をお届けします。
自然に溢れながら、レストランやカフェ、アパレルや音楽、インテリア、アートなど…様々なカルチャーが心地よく交差する奥渋エリア。私たちがこの場所に店舗を構えたのは、自然の中で商業と住宅が混ざり合い、新旧のカルチャーが共存する独自の魅力を持った街だからです。この街に集うプロフェッショナルとエリアの魅力をとことん話してみよう、と奥渋愛とともに始まった連載をどうぞお楽しみください。

今回ご出演いただくのは、渋谷区神山町の本屋「SHIBUYA PUBLISHING & BOOKSELLERS(以下SPBS)」。2008年のオープン以来、進化し続ける奥渋エリアで変わらず愛され続けている数少ない店舗です。
コミュニケーションディレクター・佐和千晶さんにお話を伺いました。

――早速ですが、SPBSのオープン当初、奥渋はどんな街だったのでしょうか。
「私たちは2007年創業、店舗は2008年にオープンしました。当時はまだ『奥渋谷』という言葉も定着していなくて、住宅街と商店街が隣接するエリアでした。ちょうど同じくらいのタイミングでビストロの『アヒルストア』さんがオープンし、そこから少しずつお洒落なカフェやストアができてきたと聞いています。弊社代表の福井盛太が神山町の商店街の方とこのエリアをどうやって盛り上げていくかという中で、『奥渋谷』という名で街をブランディングしていこうと働きかけていったそうです。そして街のフラッグを作る際に、デザイナーさんと奥渋谷よりも『奥渋』がいいんじゃないかという話になったとか…。と言っても、『奥渋』という名称の誕生には諸説あるようですね(笑)」

――まだあまり知られていなかったこのエリアに、店舗をオープンしたのは何故だったのでしょう。
「まだこのエリアは今ほどの人通りの多さや商業的な賑わいはなく、でも地元の方々同士の距離が近く、そして渋谷駅から少し離れていて洗練されているけど下町感があるという、絶妙な感じを代表が気に入り、ここに決めたという経緯があります」

――オープン当初から、クリエイティブな方々が集まっていましたよね。
「そうですね。NHKの近くでしたし、当時から広告関連やクリエイターの方が多く活動しているエリアなので、今も変わらずそういうお客さまにもお越しいただいています」

――佐和さんご自身はどんな経緯でSPBSに入ったのですか。
「わたしがSPBSを知ったのは2012年くらいで、このエリアがちょっとお洒落そう!と思い、『FUGLEN』さんに寄った帰りに初めてSPBSに寄った記憶があります。元々は本に関わっていたわけではなく、百貨店に勤めていて、色々とリサーチする中でこのお店は企画のヒントがありそう!と思って行ってみました。当時独立系の書店ってまだあまりなく、コンパクトにセレクトされた本がとても新鮮に映ったことを覚えています。それからネタを探しによく足を運ぶようになりました。今では書店でのトークイベントはよくあると思いますが、当時から様々な分野の方たちとジャンルを横断したトークイベントなどを積極的にやっていて、とても新鮮でしたね」

――通っていくうちに働くことに?
「そうですね。通いながら、2020年にSPBSが新店舗を出すというタイミングで参加してみたいと思い、入社しました。現在は、主にイベント企画やプロモーションを担当しています」

――SPBSのスタッフの方もお店に通っていたという方が多くいらっしゃるそうですね。
「ここで働きたいと思ってもらえるのは嬉しいですね。SPBSを卒業した歴代店長やスタッフたちが、ブックディレクターや自分で書店を開いたりと、それぞれに活躍しているので、働くスタッフのモチベーションにもなっています」

――長く愛され続けているSPBSは、他の本屋さんとは違う魅力があります。
「コンセプトは“入り口の本屋”。まだ本を読み慣れていない方たちも安心して入れるように作られています。ジャンルごとに整理されているのではなく、編集的な視点で本を組み合わせていくことを心がけています。
つまり、明確にジャンル分けされた棚にはなっておらず、その時そのときの関心ごとや、時代によって生まれる問いみたいなものに関連したものを置くようにしています。あとはスタッフの好きという気持ちも反映されていますね。一つの棚にビジネス本もあれば、アートの本もあれば、ZINEもある…。気づかない関係性みたいなものを提示して、思いがけない感覚で出会いがあると嬉しいです」

――店舗から編集の力を感じます。そして手書きポップも印象的です。
「オープン当初から変わらない売り方です。みんないつも頭を悩ませながら、時間をかけて言葉を探していますが、やはりポップを置いている本は旅立つスピードが早いですよね」

――雑誌が売れないと言われている時代ですが、紙の難しさを感じることはありますか?
「ここにいらっしゃる方って、何かしらの問いを持っていて、そういう方たちはデジタルで見つかる答えではなく、自分で考えたいと思っている方が多いように感じます。そういう意味ではデジタルで到達できないものだったり、手に持った質感で理解して脳に伝わるような答えを求めているのかなと。今の時代に、少しは役割を果たせているのかなとは思います。むしろ紙の大切さを実感している方が多くいらっしゃり、SPBSでは本の需要が伸びている印象がありますね。
また、近年は各地でブックフェアなども盛況と聞きますし、本そのものだけでなく、『誰から買うか』といった関係性も含めて、本のあり方が見直されているのかもしれません」

――街にとってはもちろん、業界にとってもSPBSの役割は大きなものだと思います。
「本を売ることはもちろんですが、ジャンルを横断した対話の機会や、場づくりというのはずっと意識しています」

――これまで作ってきた『場』について聞かせてください。
「トークイベント以外にも、編集ワークショップということを長年続けていて、本の作り方や雑誌の作り方を提案してきました。その延長として、“本屋の学校”『SPBS THE SCHOOL』もスタートし、本や雑誌、写真集、歌集の作り方に加えて、ポッドキャストの番組づくりまで、本を起点としたさまざまな講座を実施してきました。
本を作りたいと思っている方が、ここ数年で特に増えている印象です。デザイナーや編集者はもちろん、そうではない一般の方も。ある意味、デジタルの進化によって、制作や発信のハードルが下がったこともあり、自分の視点や表現をかたちにしたいという動きが、より身近なものになってきているのかもしれません。
自分を表現するツールとしてリトルプレスやZINEが盛り上がっていますね。SPBSでもひとつのコーナーができるくらいです。そういう方々が持つ問いや時代感は、いろんな発見があるし、選書のヒントを与えていただくことも多いです」

――パソコンや携帯が何でも教えてくれる時代ですが、実際に人と人の間で交わされる会話によって知ることができるのは貴重な機会ですね。
「オープン当初から様々なジャンルのクリエイターたちに支えられ、トークイベントやワークショップを実施しながら、店舗が認知されてきました。
SPBSでも創業当初は『Made in Shibuya』というレーベルをつくって、岡本仁さんにアドバイザーに入っていただき、自分たちの好きなテーマでZINEを作ったりしました。今思えば、とても贅沢ですね。
代表の前職が編集者だったこともあり、編集スペースをお店から見えるようにガラス張りにして、自分たちで作ったできたての本を自分たちの手で提供するという、パン屋さんのような本屋さんを作りたかったそうです」

――当時代表の福井さんがブログやTwitter(X)で発信していたことを思い出します。
「本を買う場所であると同時に、発見やきっかけの場所にするというのが代表の想いでした。今はオフィスをコワーキングスペースとしても貸し出していて、そういうかたちでまた人と出会えるのは私たちにとって、とても大きなことですね」

――街もどんどん変化していますね。
「カフェやギャラリー、セレクトショップなど、新しいお店もどんどん増えて、認知度が大きく変わったと思います。街として輪郭がはっきりしてきたというような印象がすごくありますね」

――これからも進化を続けていく街で、どんな存在でありたいと考えていますか?
「人と人をつなぐ接点になり続けたいという想いがあります。駅から少し距離があって小規模なお店が多いので、顔が見える距離感というか。代表が物件を探していた頃に感じた魅力をより楽しめるエリアになっていくと嬉しいですね。なかなか繁華街では成り立たない、どこのお店に行っても知り合いじゃないけど知った顔というか、その距離感がすごく良く、私たちのお店もそう思っていただけるといいなと思います」

本は一人静かに向き合うだけが楽しみではない。SPBSの存在から、本には膨大な人が関わっていることに気づかされ、様々な楽しみが隠されていることを感じます。
独自の世界観の中で棚から棚へ、ゆっくりと選書の妙と手書きポップのワクワク感を味わう時間は、ここならでは。これまで多くのクリエイターたちとともに築き上げてきた場は、今後も私たちに新たな出会いをもたらしてくれるはず。
変わりゆく奥渋エリアの散歩の始まりは、変わらずに18年間存在するSPBSから是非!忘れられてしまった大切なものが見つかる、もう一つの場所として、LOST AND FOUNDとともに楽しんでみてください。

NIKKO MING TREE Ⅱ POP-UP @ SHIBUYA PUBLISHING & BOOKSELLERS開催中!
「もともと小林さんの書籍はご紹介していました。近くのLAFさんとの取り組みなら是非と、嬉しい気持ちです!」と佐和さん。
4月12日(日)までの開催となりますので、是非お越しください。

SHIBUYA PUBLISHING & BOOKSELLERS 本店
東京都渋谷区神山町17-3
営業時間11:00-21:00
https://www.shibuyabooks.co.jp/
@spbs_tokyo

Interview, text by Sahoko Seki
Photo by Yuki Furue

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