ESSENTIAL TOOLS 2025 目利きたちの見立て|プロダクトデザイナー・鈴木 元さん編

「LOST AND FOUND」オープン4周年を記念したマーケットイベント「ESSENTIAL TOOLS 2025」が、TOKYO STOREで盛り上がりを見せている中、皆さんが気になるアイテムについてを、セレクター・小林和人さんが信頼する目利きたちに見立てていただきました。小林さんが商品を紹介しながら、対談形式でお届けします。
今回は日用品や家具、家電など、生活のためのプロダクトデザインを行い、国内外で活躍するプロダクトデザイナー・鈴木 元さんです。
専門職の現場で使われるプロユースの道具たちをデザインから読み解く、鈴木さんならではの視点をお楽しみください。

鈴木元/すずき・げん

1975年生まれ。プロダクトデザイナー。金沢美術工芸大学卒業。Royal College of Art, Design Products科修了。パナソニック株式会社、IDEOロンドン、ボストンオフィスを経て2014年にGEN SUZUKI STUDIOを設立。スタジオを自宅に併設し、生活とデザインを隔てないアプローチで、Herman Miller, Casper, Omronなど国内外の企業と協業している。GERMAN DESIGN AWARD金賞、IDEA賞金賞、クーパーヒューイット国立デザイン美術館永久収蔵など受賞多数。多摩美術大学、武蔵野美術大学非常勤講師。2023年 英D&AD賞プロダクト部門審査委員長。
サステナブルな社会における新しいライフスタイルを提案するプロダクト「NIKKO Table Planter™(テーブルプランター)」シリーズで「HACHI」のデザイン設計を務める。
Instagram:@gen__suzuki

鈴木さん:「LOST AND FOUNDのセレクションは業務用っぽい雰囲気として共感しています」

小林:「それは嬉しいですね。
LOST AND FOUNDの物選びは、確かな技術に基づく優れたものであるにも関わらず、あまりスポットライトが当たらない、そういった存在の魅力を見直すという視点が軸になっていて、今回のこの『ESSENTIAL TOOLS』という企画も根底に同じ考えがあります。
もちろんプロの現場では忘れられるどころか必要不可欠なものばかりですが、専門分野以外の場所では意外にあまり知られていない道具も多いのではないかと思うんですよね。
今回、元さんにインタビューをお願いしたのは、プロダクトに作為が入り込むことに対しての慎重さを伴ったお仕事をされている印象を抱いており、そういったスタンスで実際にデザインする視点でのお話を伺いたいという思いからです」

【ガラス瓶】

(左:牛乳瓶、右:ねじ口瓶丸型  透明キャップ付)

鈴木さん:「たっぷりとした存在感が身近に置いておきたくなりますね。このクリアの蓋が、ちょっと宝飾品のように見える。蓋のリブの縦ラインとスクリューの横ラインが交差して装飾的に見えるのが面白いですね」

小林:「不思議とそうですね。無作為が反転して装飾的に見えるっていう」

鈴木さん:「これは牛乳瓶ですか?」

小林:「そうです。日本のもので、牛乳瓶とヨーグルト瓶があります」

鈴木さん:「こっちはなんか穏やかですね。落ち着きがあるというか、ざわざわしない。対してドイツのボトルはグラフィックもちゃんとしているし、ここに(ボトルのショルダーライン)アールがつけてあったり、ヨーロッパ的美意識を感じます」

小林:「ボトル一つとっても、かたや西洋的、かたや東洋的と、油絵と墨絵の違いのようで面白いです」

鈴木さん:「こっちは見るだけでもうヨーグルトっぽいですね」

小林:「確かに形状の持つ記号性みたいなものって不思議ですよね。見ただけで、ちょっと酸味を含んだようなヨーグルトの味が思い浮かべられるっていうのが」

鈴木さん:「牛乳瓶はけっこう花瓶として使ってるんですよね。いろんなサイズのものがあったりするんです。瓶として買ったものではなくて自分で飲んだものですが」

小林:「いいですね。同じ共通項がありつつちょっとずつの差異がありそうで」

鈴木さん:「分厚い飲み口に唇を付けるとガラスの厚みで口の半分くらい占めるのに対して、口径は細いから勢いよく出てくるというか。風呂上がりとか飲みたくなりますね」

小林:「身体への距離感で考えると、プロダクトは大きく分けると、身体と直接接触するものと、そうではないものとあると思いますが、元さんが以前手がけられていたマットレスのように直接身体に密着するような道具だと、他にはどんなものがありますか?」

鈴木さん:「まさに同じマットレスメーカーの照明なんですけど、直接触ることで光をコントロールするんです。照明としてはちょっとだけ身体寄りかなと思います」

小林:「『Glow』っていうライトですよね。光源を直接触るっていう照明って今まであんまりなかったかもしれないです」

鈴木さん:「今のテクノロジーだと、実は結構簡単にできたりするんですよ。昔だと電球で熱いっていうこともありましたし、回して明るさを調節できるのはスマホとかに入っているような加速度センサーの技術の応用ですね」

小林:「あれは余計な要素がほぼ介在していないっていうのが潔いですね」

【グローブ】

鈴木さん:「これ、料理の時とかもいいですね。鍋つかみとしてすごく使えそうです。熱いものを掴む時だけ着けて、またすぐ外せるように袖口が少し広がっているんですね」

小林:「確かに、付け外しのしやすさに力点を置いたデザインということが分かります」

【ボックスラッチ】

小林:「これは企画が持ち上がった時点で平林さんが愛用している道具として話が出たものです。段ボールの蓋のところにこれを付けて90度回転すると閉じたまま固定できるっていう、いわゆる“ラッチ(扉の固定具)”ですね。アメリカのものです」

鈴木さん:「なるほど、面白いですね。あまり知られてなさそうだけど、優れものですね。そしてこれもやっぱりグラフィックがいい」

小林:「やっぱり日々アルファベットを母国語の文字として使っている国のグラフィックは、文字の間隔とかフォント選びがちゃんとしていますよね」

【ボトルキャリア】

鈴木さん:「これめちゃくちゃいいですね」

小林:「ちょうどさっきのドイツの500mlのボトルが6本入るんです。しかもスタッキングが可能。実は、家具でお馴染みのイタリアの『Kartell(カルテル)』の製品なんですが、社史を調べたら家庭用品部門と数年違いで1958年にはラボ用品の部門がスタートしているんですね」

鈴木さん:「最低限の要素だけで成り立たせていますね。余計なことはやらず、いかに単純に作るかみたいな。でもこういう仕切りの付け根を三角にするあたりがイタリアだなと思って。美意識なんでしょうね。日本ではあまり見ないですよね。」

小林:「確かに攻めた美意識を感じますね」

鈴木さん:「色と質感がビールケースっぽくもあるし、お花見に持って行くのも良さそうですね。両端に4本ずつで真ん中のスペースにおつまみとか入れたり」

小林:「それは楽しいですね。赤星の中瓶とかちょうど良いかもしれないです」

【ワークトレー】

小林:「これも『HAZET(ハゼット)』っていうドイツの工具メーカーのものなんですが、フリーアドレスのオフィスで仕事をしてる方とか、自分の仕事道具を入れて好きなところに移動するのに良さそうです。もちろんマガジンラックとしても」

鈴木さん:「いいですね。しかも目盛が入ってる。こういうことはなかなかできないんですよね。センターで金型を割って単純に作っていて、こういうのも大胆で、案外デザイナーができないデザインだと思うんです。そしてそれが絶妙な魅力になっている。作り方として何も無理していないから、それが作為になってない。微妙にあんまり形が合ってないところも、ちょっとエンジニアっぽい愛おしさを感じます」

小林:「エンジニアっぽい愛おしさね」

鈴木さん:「ハンドルの断面の形状もUの字で、それも素直にやっているというか、形としてまとめようと思ってない感じがしますね。でかいロゴの入れ方とか、なんか全部が機能にまっすぐな思想で出来上がっている感じがする」

小林:「このディテールに対しての読み解きの解像度はプロダクトデザイナーならではですね。
思い出したのが、元さんがデザインしたペン立て。ガムテープとかセロテープとかそういったテープの内径が一般的なペン立てのサイズと合致するっていう発見もすごいですよね」

鈴木さん:「そう、紙菅の内径って一般的に共通していて、一方でペンとテープって割と横にあったりするなと思って。それでペン立ての外径がちょうど単純にテープの内径に合わせたものをデザインしたんですけど、土台がちょっとついているので一緒に持ち歩けたりとかして」

小林:「ロンドンの『RCA(ロイヤル・カレッジ・オブ・アート)』時代、デスクの上でテープを重ねたその紙菅の中にペンを突っ込んでいたとインタビューで話されてましたね。そういった無意識の行動から生まれるデザイン、それこそ作為が介在する余地がない潔さがありますよね」

鈴木さん:「もともと人に見せるためとかじゃなくて、本当に自分が使う用に作ったんですよね」

小林:「そういう、“見られることを意識していない”っていうね」

鈴木さん:「そう、デザインを落とし込む上でそこが難しいところですよね」

小林:「あと、LOST AND FOUNDでも取扱予定の東大阪の町工場の延長コードなんかも、まさにそうだなって思えます」

鈴木さん:「あれは従来からある工業用のものとそんなに大きくは変えてなくて」

小林:「でも僅かに、ちょっとしたところをね」

鈴木さん:「はい、ちょっとだけ変えてます。それこそ僕にはできないようなエンジニアリング的荒々しさをちょっとだけ整えていくというか。そういうものって結構ガタガタしてたり、使いにくかったりするものも多々あるので、その引っかかりが必要以上に意識に上る場合であれば整理した方が良いですし、逆に引っかかりがあることによって奇跡的にぴたっと来て魅力的なものになっている場合もたまにあるので、そういうものはもう触らない方がいいんです。そこの見極めがすごく難しいですね」

小林:「何を引いて何を残すかということですね」

【両面接着テープ】

小林:「これは『DIC(大日本インキ化学工業)』が出している両面テープで、実はこれ、片面が強粘着で、もう片面は再剥離型なんです。たとえばポスターとか貼るのに壁は痛めたくないけど、でもあんまりすぐ剥がれちゃうのも嫌だし、という場合に役に立つかな、ということで」

鈴木さん:「すごい。よくぞ見つけたっていう感じです」

【ハサミ】

小林:「これは『Matfer(マトファー)』という調理道具メーカーの料理バサミです。製造しているのが同じイタリアの『Premax(プレマックス)』というハサミメーカーです」

鈴木さん:「綺麗ですね。普通は余計なことやっちゃうんですよね。手に痛くない樹脂のグリップとかってたまに過剰に思える時がありますし。そうでなくて、こういうものでいいのだと改めて思います」

小林:「はい、過剰な介在がものを曇らせちゃうみたいなことってありますよね」

鈴木さん:「デザインにおける問題解決って、表裏一体で。
例えばハサミだったら持った時に痛くならないことも大事ですが、使ってない時のほうが時間としては長い。だから置いてあるときはどうなのかとか、樹脂と金属を一緒にしたら耐性はどうなるのかとか、廃棄の問題はどうなるのかとか、そういうことを全部合わせて考えなくてはいけないのに、わかりやすく問題を定義してピンポイントでその部分だけ解決しようとすると、せっかくのいいバランスが壊れるってことが結構あると思うんですよ。問題の一点だけに焦点を当てて使い心地を改善しましたみたいなことは、マーケティングしやすい反面、危険だなって思う時がありますね」

小林:「売り文句にしやすいですもんね」

鈴木さん:「『痛くないハサミ』のデザインをして欲しいとかね。そういうオーダーって結構危険な落とし穴で、そこに向かううちにどんどん変な意味で個性的なハサミになっていく。デザイナーの発想というより、会社のマーケティング的な事情に引っ張られてしまって、世の中には色んなハサミがあるのに、真ん中のハサミがないみたいなことになってしまう」

小林:「気づけば、普通のものを見つけるのがどんどん難しくなってきてますね」

鈴木さん:「デザイナーとしてもやっぱり個性とか特徴を求められる。そうなると『これ位でいいじゃないですか』とか、『もうこれで止めときましょうよ』ってデザイナー自らは言いにくくなるし、普通のことがやりにくくなりますよね。」

小林:「そういう風潮はあるでしょうね」

鈴木さん:「拡大再生産の世界です。でも本来のデザインとはちょっと違う」

小林:「確かにその資本主義的な拡大再生産という態度とデザインの本質ってかけ離れてますよね」

鈴木さん:「違いますね。デザインという言葉だけ便利に使われてますけどね。
デザインって本来、流行に左右されないコンサバティブなことだと僕は思っていて。新しいものがどうというより、時代や技術、生産方法が変わってバランスが崩れたものをちょっと直すとか、その状況の最適解を探していくみたいなことだと思う。非常にゆっくりした世界だと思うんですよ。無理に変える必要はない。せっかくいいバランスができているものを変に触っちゃうとちょっとおかしくなりますよね」

小林:「新規性を求め過ぎる風潮が良くないということかもしれないですよね。そういう世の中の流れに対しても変わらない業務用の道具っていうのはひとつの抵抗としての…」

鈴木さん:「手本だと思います。合羽橋とかに行くと、たまたま見つけたものを意味なく買っちゃいますね。それであとで用途を探すっていう。昔、お菓子か料理用の型がすごくきれいで買ったんですけど、家に帰ったら名刺のサイズにピッタリで名刺入れとして使ったりして。さっきからの話じゃないですけど、意外とそんなにこう一番持ちやすい形をしていなくても全然大丈夫だと思うんですよね」

小林:「こっちがアジャストしていけばいい。和包丁の簡素な柄なんかは、使う側が自分で使いやすいように合わせていくものですもんね」

鈴木さん:「そう、本来は使い手が合わせればいいことなんですよね。なんか持ちやすい形でとか、つい過剰にやりがちですけど、機能は別に道具だけに持たせなくても使うこっち側が上達すればいいんですよね。さっきの名刺入れも、新たにデザインしようとしたら余計なことをやりがちだけど、合羽橋の料理の型で全然使える、みたいな世界ですよね。だから、全然違うために作られたものでも他のものに転用しても普通に使いやすかったりするし、今回ここに並んでいるものはまさにそういうものばっかりじゃないですか」

小林:「素晴らしい着地ですね。今日はありがとうございました」

マーケットイベント「ESSENTIAL TOOLS 2025」に並ぶものを実際に手に取り、ディテールを確認しながら今回のお話の答え合わせをするのも楽しいはず。12月8日(月)までの期間限定開催となりますので、是非お越しください。

Lead & Closing sentence by Sahoko Seki
Interview & text by Kazuto Kobayashi
Photo by Yui Okado

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